第2話
「お部屋のご用意が出来ましたので、ご案内致します。食事は部屋へお持ち致しますので」
そう言って、先ほどの男が部屋へ案内した。離れのその部屋には、両開きの戸がある。どうやらこの辺りには大陸の文化に馴染みがあるようだ。部屋に入ると、卓と椅子、奥には屏風で隠された木製の寝台があり、靴を脱いで上がる板の間はなかった。
「どうです? いい部屋でしょう?」
男が言った。
「ああ、変わっているな」
若者が無感情で答えると、
「初めてのお客さんは、みんな珍しがるのに、お兄さんはとても冷静だね」
と男は期待外れの反応に少しがっかりした様子だ。
「大陸へ行ったことがある。こういう部屋は初めてじゃないからな」
「もしかして高貴なご身分のお方でしょうか?」
男は急に態度を変えて、丁寧に尋ねた。
「さあ、どうだろうね」
若者が答えたとき、
「お食事をお持ち致しました」
と女が食事を運んできた。
「そこへ置いてくれ」
若者が言うと、女は卓の上に食事を置き、下がっていった。しかし、男はまだそこにいる。
「用が済んだのなら、あんたも部屋から出てくれないか?」
若者にそう言われて、男はまだ何か聞きたげな様子で、若者を見たが、何も言わずに部屋を出て行った。
「俺が高貴な身分なら、何かいいことでもあるのか? 何を期待していたんだろう?」
若者はそうつぶやいて椅子に座り、白兎を卓に載せた。
『そりゃ、決まっているだろう。高貴な身分の者なら、金払いがいいと思ったに違いない』
白兎が答えた。
「そうか。でも、期待外れだったな。俺はそんなに金を持っていないからな」
『周りの連中はそうは思わないだろう。高貴な身分かどうかは、見た目で判断するからな。気を付けろよ』
「何に?」
『不当に高額の請求をされることとか、隙を突かれて、物を奪われることがあるかもしれない』
白兎はそう忠告した。
「はははっ。俺に限って、騙されたり物を奪われることなんてあるわけがないだろう?」
若者はそれを笑い飛ばした。
『そういうところだよ。俺が心配しているのは。自信過剰で身の程を知らないから、いつか痛い目を見るだろう』
「それなら、お前が防いでくれたらいいだろう? いつでも俺の傍に居るんだからな」
『お前、この姿の俺に何ができると思っているのだ?』
白兎は不満げに言った。
「そんなに自分を卑下するなよ。俺はお前を頼りにしているんだからな」
若者はそう言って、白兎を抱き上げ頬擦りした。
『やめろ!』
と白兎は身を捩ったが、
「嬉しいくせに」
と若者は笑いながら言った。
「明日は早起きして、仙人のいる山へ行くからな。今日はもう寝よう」
急に若者は真顔になって白兎に言った。白兎はそれに黙って頷いた。
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