勤続40年のミミック

和泉歌夜(いづみ かや)

本編

 かつて、『皆殺しのミミック』と恐れられていた宝箱がいた。

 それは俺だ。

 しかし、もうかれこれ四十年以上も前の話。

 ヤンチャだった頃は、若い女性の冒険者を狙っていたが、今は誰でもいいから獲物が欲しい。

 だが、誰も来ない。

 それもそうだ。

 この俺があまりにも有名になり過ぎて、王国側が新しい道を作ってしまったのだ。

 冒険者は皆そこを通るから閑散としてしまった。

 たまに馬鹿な魔物が通るが、私の事を知っているから開けようとすらしない。

 はぁ、そろそろ引退かな。

 そう思っていると、誰かやってきた。

 人間――いや、魔物だ。

 頭に角が生えている。

「こんにちは、皆殺しのミミックさん。私、魔王の側近を務めておりますバーグと言います」

 バーグと名乗るが穏やかな笑みを浮かべた。

「何のようだ」

 俺がそう尋ねると、バーグは「実は残念なお話がございまして」と悲しそうな顔をした。

 ドキッとした。

「魔王様が今日を持ってあなたを軍から除隊させると」

 やはり、そうか。

 俺は文句の一つでも言ってやりたかったが、原因が分かっていたので、素直に受け入れた。

「俺はどうなるんだ」

「実は近々我が国に遊園地ができましてね……」

 バーグの話によると、俺をお化け屋敷の驚かし役をやってほしいそうだ。

 魔物がお化けを怖がるのは初耳だが、何はともあれ新たな就職先が決まった。

「いいぞ」

 俺は承諾すると、バーグは喜んですぐに魔王の元へ行った。

 それから数日後、俺は正式に遊園地での勤務が決まり、今もこうして色んな魔物達を脅かし続けている。

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勤続40年のミミック 和泉歌夜(いづみ かや) @mayonakanouta

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