4 引き継ぐ

あれから私自身は、特に変わった事も無く、仕事も始まり、相変わらず忙しい日々を過ごしていた。


しかしコウタは、目に見えて調子が上向き、寝起きの顔色も良くなっていった。


学年最初の実力テストでは、今までにない好成績を叩き出した。


極め付けは、初めて同じクラスになった女の子から、人生初のラブレターなる物を貰ってきたのだ。


私は、半信半疑だったクリスタルや盛り塩が、段々と確信に変わってゆくのを、他人事のような不思議な気持ちで、どこか俯瞰ふかんで見ていた。


身体は自動的に、息子の為に毎日、部屋を掃除して新しい塩を盛った。


兎に角、サヨコお姉さんに、お礼をしに行かなければ。


そして、次こそは、私に取り憑いた生き霊とやらが、誰だったのか、教えて欲しい。


それに、もっと運気をアップさせるには、どうすればよいか知りたい。


仕事運も見て欲しい。


私の煩悩は次から次へと深くなり、G.Wに又、帰省しようと思った。


父に電話で頼んだら、


「二度目は、金を取るそうだ。高いぞ。もう、やめとけ。」


と言われた。


えっ?

タダじゃあないの?


私はまさかと思ったが、どうも本当らしい。

従姉妹なのに。なんて姑息な商売なのだ。どうせ、インチキに決まっている。


私は掌を返すように、胸中で悪態をつき始めた。

私とコウタが、母子家庭で裕福では無い、と知っていての、この対応。


息子共々、馬鹿にされたように私は感じた。…許せない。


じわじわと怒りが込み上げて来た。


それから私は、出来心で、サヨコお姉さんに向かって自分自身の生き霊を飛ばすイメージを思い浮かべてみた。


コウタの運気アップは、偶々たまたま、日頃の努力が実っただけだ。


あの占いなんか気にしなくてもいいのだ。


それより、あの占い師が憎らしい。


私は夢中になって、毎晩、眠る前にサヨコお姉さんの手振りリアクションの真似をしながら、不幸を祈った。


暫くしたある日、母から電話が掛かって来た。


「もしもし、お母さんよ。コウタは元気?


あのね、昨夜、あなたの従姉妹のサヨコさんが、亡くなったのよ。


先月から、どうも具合が悪かったみたいでね。…聞いてるの?」


私は言葉を失った。


丁度、昨夜、サヨコお姉さんが倒れて苦しんでいる夢を見たのだ。


まさか本当に、私が毎日、念力を飛ばした結果なのか?


父方の女性陣は、皆、昔から霊感があったのだ。この私にも、不思議な力があってもおかしくは無い。


今まで、気が付かなかっただけかもしれない。


私は、一連の出来事への畏怖いふよりも、やった!これで稼げるぞ!という気持ちが自然に湧いてきた。


上手くやれば、何時も我慢させることの多い息子に、好きな物を買ってやれるかもしれない。


そういえば昔、子供の頃、私が嫌いだと思ったクラスメイトが、具合が悪くなり保健室に運ばれるという事が、何人かあったな。


私は才能を埋もれさせていたのだ!


「…ごめん、お母さん、私びっくりしちゃって。…うん、分かった。

お通夜は行けないけど、お葬式は出ようかな。…うん。…じゃあ、またね。」


私は携帯電話を耳に当てたまま、嬉しくて嬉しくて、ほくそ笑んだ。


fin





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血筋 つきたん @tsuki1207

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