どうやって
視界が暗くなっていく……そう、思っていたのに、何故か俺の視界は暗くなるどころか、明るくなってきていた。
……キメラが口の中から俺を出したからだ。
そうすると、どうなるのか。
俺は水晶玉を持っている方の手に視線を向ける。
そこには、上半身がキメラの涎だらけの男と、俺がいつもストー……じゃなくて、見守っていたミレイが俺を唖然とした様子で見上げていた。
……いや、ダサくない?
「そんなこと考えてる場合じゃないか」
少し首を横に振りながら、俺はそう言った。
今、俺はキメラに襲われている状況なんだ。
「……?」
そうしてキメラの方向を見てみると、何故かキメラの歯はボロボロになっていて、俺の事を怯えたような瞳で見ていた。
……もしかして、俺がキメラに噛みちぎられなかったのって、キメラが俺を噛みちぎらなかったんじゃなくて、噛みちぎれなかったのか? ……中身が変わったとしても、腐っても邪神ってことか?
……確かに、邪神がたかがキメラに負けるなんてありえないもんな。
……更にもしかしてなんだけど、俺、体は邪神なんだし、魔法とかも使えるのか? ……どうせ使えなくたってもうあの怯えた目を俺に向けてくるキメラに負けるとは思えないから、試すのも全然ありだな。
「ふっ、ファイヤーボール」
そう思った俺は、キメラに向かって手を向け、ミレイが後ろにいるから少し格好をつけながら、そう言った。
……うん。何も起きない。
え、恥ずかし! あの、後ろを振り向けないんだけど? ミレイが今どんな顔をしてるかを想像すると、顔が熱くて死にそうなんだけど。
そんな思いをしながらも、俺は少しでもそのことを誤魔化すために、キメラに向かって走り出して、思いっきりぶん殴った。
少なくとも、このキメラ相手にビビる必要は無いって分かったし、余裕だ。
「よし、終わったな。……大丈夫か?」
そして、キメラを倒した俺は、ミレイが映っている水晶玉をストーカーだと思われないために隠しながら、なるべく笑顔を心がけて、そう言った。
……ただ、言ってから気がついたんだけど、俺、キメラの涎まみれだから、全然カッコがつかないわ。
なんか、体が綺麗になる魔法とかないのか? ……うん。あっても俺使えないわ。
邪神だから、魔力とかは絶対腐るほどあるんだろうけど、魔法の使い方を知らないから、宝の持ち腐れなんだよ。
「……えっと、どこか怪我でもしましたか?」
そう思いながらも、今更恥ずかしがるような様子を見せる方がかっこ悪いと思って、俺はそのままミレイに向かってそう言った。
……仮に、本当に仮になんだけど、ミレイにかっこ悪いと思われてたとしても、これからミレイと一緒に過ごしていく訳でもないんだから、俺が悲しい以外には理由なんてないし、別にいいんだけどさ。……俺は悲しむけど。
「えっ、あっ、い、いえ、あなたのおかげで、怪我は無いです! た、助けてくれて、ありがとうございます!」
ミレイはまだ腰が抜けているからか、尻もちをついたまま、そう言ってきた。……俺の顔にビビってる訳では無いよね?
……ま、まぁ、良かった。ミレイが無事だってことはもちろん良かったんだけど、それよりも、ミレイがスカートじゃなくて、良かった。
もしもミレイがこの状況でスカートを履いていたのなら、絶対そっちに視線が向いてしまってた自信があるもん。ただでさえ悪人面なのに、そんなことになってたら、助けたっていう補正が働いたとしても、気持ち悪がられてたわ。
「いえ、あなたが無事なのなら、良かったです。……それより、一人でこんな森の中に?」
本当は水晶玉で見て全部知ってるんだけど、俺はそう聞いた。あの男への怒りを押し殺しながら。
「……一人じゃない、です」
すると、暗い顔をしながら、ミレイはそう言ってきた。
……男が死んだことか、男が逃げたことか、どっちにそんな顔をしているのかは分からないけど、これ以上は聞かない方がいいと思って、俺は言った。
「……そうですか。何があったのかは分かりませんが、これ以上は聞きません。それよりも、どこから来たんですか? 一人だと危険ですからね。送っていきますよ」
「……ごめんなさい。お願い、できますか?」
「もちろんですよ。困った時はお互い様って言いますしね」
「……ふふっ、ありがとうございます」
ん、よく分からんけど、ミレイが少し元気になったみたいだ。
さっきまでの暗い表情よりはかなりマシだし、良かった。……正直、俺はこの一件のせいで人間不信にでもならないかと心配だったんだけど、この様子なら大丈夫そう、かな。
「……」
うん。それは良かったんだけど、どうやってミレイを村に送って行こう。
俺がこんなキメラの涎だらけじゃなかったら、普通におんぶでもして村まで連れて行ったんだけど、涎だらけなんだよ。
この状況で女性をおんぶするのはダメ、だろ。ミレイだって嫌だろうし。
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