『箱の中身はなんだろう』ゲーム

むらた(獅堂平)

『箱の中身はなんだろう』ゲーム

 学生時代、僕はイジメられていた。

 暴力は日常茶飯事で、好きでもない女子生徒に告白させられたり、教師の私物を盗ませたり、色々な命令がくだされていた。拒否しようものなら、イジメはエスカレートするので、僕は従うしかない。

 特に嫌だったのは、『箱の中身はなんだろう』ゲームだ。これは目隠しの状態で箱の中を探り、入れられているものを当てるゲームだ。

 ムカデ、ゴキブリ、人糞など様々な嫌がらせの物が入っていた。当てなければ暴力や罰金が待っているので、僕は手を突っ込むしかなかった。

「早くしろ」

 イジメのリーダー・仁地にんちが言った。このゲームの発案者だ。

「うう」

 僕は箱の中におそるおそる手を入れた。目はイジメグループの誰かに塞がれている。

 虫の蠢きを感じた。カサカサとシャカシャカした動きの二種類の虫が手に這い、僕は悲鳴をあげた。


 *


 *


 リアルな悪夢を見て、叫びながら目を覚ました。

 夢の中で、僕は相変わらずイジメにあっている。十年たっても記憶は消えず、この傷は一生癒えることはないだろう。

 ガタガタと音がした。僕が借りているマンションは2LDKで、リビングの隣の洋室からその音は出ていた。

「静かにしろ」

 洋室に入ると、僕はドスの利いた声で言った。

 男はアイマスクと猿ぐつわをしており、後ろ手で拘束している。まともに喋ることはできないが、せめてもの抵抗として足をばたつかせていたのだろう。

「お前、自分の立場をわかっているのか?」

 僕の問いに、男は「ウ~ウ~」と情けなく唸った。

「今日で監禁三日目だっけ? 昨日は見事にムカデを当てることができたな」

 僕は冷蔵庫に置いていた箱を取り出す。

「昨日みたいにゲームをするフリして、僕に殴りかかろうとするなよ? 指を切り落とすからな」

 左手を左足と手錠で繋ぎ、後ろ手の拘束を解く。殴ることはできても立って逃げることはできない。

「さてさて、三日目の『箱の中身はなんだろう』ゲームだ。今日も見事に当ててくれよ。仁地くん」

 あれほど威張っていたイジメのリーダーは、僕の玩具になっている。SNSで若い女性を装って近づき、待ち合わせ場所でスタンガンを食らわせて眠らせた。妻子がいるのに不貞行為を企てるからこうなる。

 仁地は箱の中に手を突っ込む。今日は殴りかかってくることはないようだ。

「さあ、正解を当ててくれ」

 僕は彼の猿ぐつわを外した。

 三十秒ほど箱をまさぐるが、答えようとしない。

「おいおい。わからないのか? 普段、仁地くんがよく触っていたものじゃないか」

 僕はニヤニヤと笑った。愉快だ。

 一分ほどすると、確信に至ったのか、彼は、

「ひい」

 と情けない声を出した。

「さあ、正解を聞かせてくれよ」

 僕は促したが、仁地はガタガタと震え始め、答えようとしない。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『箱の中身はなんだろう』ゲーム むらた(獅堂平) @murata55

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説