福引と三つの箱
ゆかり
第1話
「大当たりぃ~!!!」
カランカランカラン♪ と鐘が鳴って紙吹雪が舞った。
「特賞ですよ。やりましたね!」
タバコを箱買いしたら、くじが引けるというので奮発して買ってみた。そしたらなんと特賞が当たった。奮発した甲斐があった。
特賞なんて、くじだろうが、絵だろうが、書道でも工作でも取ったことが無い。四十数年生きてきて初めての事だ。感動だ。
「では、この三つの箱の中からお好きなものを選んで下さい」
敏雄が『特賞』の感動に浸っていると、店の人が三つの箱を差し出してきた。どれも同じくらいの大きさの(28センチくらいのビジネスシューズが一足入りそうな)白い紙の箱だ。
「え? 選ぶの? 中身は何なの?」
「それは~ちょっとお教えできません」
「どれに何が入ってるかは教えらんないだろうけどさ、何と、何と、何が入ってるかくらいは教えてよ」
「申し訳ありません。決まりなんで」
「いや、だって特賞でしょ? 三つとも何か素晴らしいものだよねぇ?」
「さあ? どうでしょう?」
「いやいやいや、特賞だもん。ポケットティッシュ1年分とかじゃあないよね?」
「この箱に一年分も入ると思いますか? それに花粉症の人とそうじゃない人では使う量も違いますからねぇ。一年分の定義が判らない」
「いや、そういう事じゃなくてさ。大体どんな系統の物が入ってるかくらいはさあ」
「お教えできません」
「うん。なんかちょっとモヤモヤするって言うか、なんか納得いかないなぁ、うん、納得いかない」
敏雄はやたら瞬きしながら、暴言を吐きそうになる自分を抑えるために無理やり笑みを浮かべる。こんな些細な事でキレたりしてはいけない。オレは社会人だ。会社に行けば部下もいる。こんな福引くらいでキレてる姿は見せられない。
「じゃあさ、手に持ってみてもいいかな?」
「それは困ります」
「いや、別に開けないよ? 重さをみるだけ。どれか一つに決めるにしてもヒントみたいなのが欲しいじゃない?」
「決まりですから」
「いや、決まり決まりってさ、大体最初にタバコ買う時にさ、箱買いするとくじが引けますって言ったときに何の説明もなかったじゃない?」
「それは聞かなかったあなたが悪いのでは?」
その通りだ。その通りなだけに余計に腹が立つ。もうやめよう。こんな事で腹を立てている自分が情けない。
「もういいや。真ん中、真ん中の箱にするよ」
どうせ元はタダなのだ。タバコは二個くらいで良いところを十個も買ってしまったが、それとてどうせ吸うのだ。別に余計な買い物をした訳でもない。
「おめでとうございます。ポケットティッシュ一年分です!」
「なんでだよぉ! お前さっき、この箱に入るわけないって言ってたよなあ!」
キレてしまった。もうダメだ。止まらない。
「実物は入りませんが、引換券が入ってます。それに僕、入らないと言っただけで違うとは言ってませんよ」
「人によって使う量も違うって言ってたじゃないかよ! それはどうすんだよ!」
多分、論点がズレている。だがもう止まらない。
「一年間に必要な分だけ申告制になってます」
「いらねえよ! ポケットティッシュ使いづらいんだよ! くしゃみ鼻水が出てから取り出そうとしても破けたりして直ぐに出ねえし、直ぐ無くなるし、せめてボックスティッシュにしろよ!」
「決まりですから」
「お前、ロボットなんじゃねぇか? 自分の頭で考えてみた事あるのかっ?!」
暴言まで吐きだした。自分の中のどこかで客観的な自分が冷や汗をかいている。それを感じて少しだけ冷静さを取り戻す。
「じゃあ、他の箱の中身も見せてみろよ。他のも全部ポケットティッシュなんじゃねえのか?」
「その通りです」
「なっ?! なんだとお?!」
その時、大きなプラカードを持って医者のような白い服を着た数人が店に入ってきた。プラカードには『どっきり』とは書いてないが『申し訳ございませんでした』と大きく書かれている。
「すみません。実は私ども、カスタマーサービスはどうあるべきかという研究をしておりまして。ちょっとした実験にご協力を頂いた訳でして、本当に申し訳ありません」
敏雄は驚きなのか怒りなのか訳の判らない感情に支配されて言葉が出ない。
「普段、あまりクレームを仰らない方のクレームをこそ聞きたいということで、そういう辛抱強い方々は何故我慢をするのか、それでも堪えきれなくなるとしたらどういう状況の時かなどデーターを収集しておりまして。この度は本当に貴重なサンプルをご提供頂きました。感謝いたします」
そう言って全員が深々と頭を下げるので、敏雄はただ、口の中で何かモグモグ言うばかりだ。
「感謝の気持ちとお詫びを兼ねましてどうかこちらを・・・・」
そう言って箱を差し出す。三つ。
「お好きなものをおひとつ」
「何でやねん! もおええわっ!」
ありがとうございましたー
福引と三つの箱 ゆかり @Biwanohotori
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