第33話 あとは引き受けたよ。この詰らない世界の殺害計画を
「ご無事ですか、
土煙を浴びた
眼前には、無惨にも半壊した校舎。爆発によって吹き飛んだというよりかは、地下空間の崩落に巻き込まれたようで、施設があったであろう中庭から、入り口となっていた生徒会室部分を中心として、大穴に吸い込まれるように倒壊している。
「
それまで呆然と立ち尽くしていた
それから、自らも
「説明は後だ! 車を出せ!」
「……はっ。して、どちらに?」
「二十一号室だ! 急げ時間が無い!」
「……しかし、あの施設は、いまは公安に――」
「黙れ! 突破しろ! 一〇〇〇万人が死ぬぞ!」
それから
何をすべきかは分かっていた。
堕ちて来る星を止める。
タイムリミットは二時間を切っている。
まるで、完成された一つのチーム。
「やっぱ……流石だな」
伸びる四人の影。
その姿に、ふとバスケ部時代のことを思い出す。
コートに立つ仲間の姿。それは天井からの照明に照らされて、輝いて見えた。一人ずつにきちんと役割があって、一つの目標に向かって走っていく。その光景が、なんだか懐かしく思えて――
思い出にふけている場合ではない。
俺は駆け出す四人の後を追った。
*****
カーラジオが告げるのは、
「……」
沈黙が続く。
けれど、それは意気消沈しているからではない。お互いが向かい合って座る後部座席には、地球のミニチュアの映像が浮かべられ、いわば移動する前哨基地に姿を変えていた。
いまのところ、
いずれにせよ、アームの破壊工作くらいはされる可能性がある。それに備えて、簡単な迎撃はできるようにと
「偽物の映像ってことはないよね? 差し替えられてるとか」
「ない……と信じたい」
「そい!」
不意に、
何をするんだと思いきや、映像のなかのアームはきちんと動いていて、確かに動作していることが確認できた。遅延はあったが、それは電波環境のせいだろう。その様子に、
「電力を無駄にするな……と言いたいが、定期的に動かしてくれ。映像が差し替えられていないか確認したい」
「まかされた!」
屈託のない笑みを見せる
それで張り詰めていた
「……」
他方で、
見れば、名簿のようだが、こんな時に何をしているのだろうか。手持無沙汰になっていた俺が言えたことではないが、少し訊きたくなった。
「何見てんだ? 確か図書室でも見てたよな?」
「宇宙ホテル事故の死亡者リストだよ。見る?」
「いや、見ねぇけど……気になるのか?」
「ちょっとね……」
不思議なことを気にするものだなと思った。その事件に関しては、
死者に関して詳細は知らないが、大物の政治家が国内外問わず、たくさん巻き込まれたとは報道でもされていた。なかでも衝撃的だったのは、
だが、
「……」
ふと、俺は
いや、いまは何の感情もないのかもしれない。ただただ、宇宙ホテルの落下を防ぐことだけを考えている。そんな目をしていた。
『――先ほどからお伝えしております、
カーラジオから聞こえた音声。
それが気になったのか、
「……あっ、お
「チッ。しぶとい奴らだ」
画面の端に映り込んでいたらしい。何気なく見ていた俺は見逃してしまったが、よく見ていたなと思う。それよりも、犠牲者の有無の方が気になっていた俺は、それどころではなかった。
数人の生徒が怪我をしたが、いずれにしても命に別状はないとのこと。それで、とりあえず安堵の息をつく。とはいえ報道で、関係者の死傷に関する情報が伝えられることはなかった。
――俺の代わりはいる。
脳内で声が響いた。
けれど、これは他人の声なんかではない。記憶にはないが、少し前に同じセリフを俺も吐いた気がする。
そうやって、代用品であり続けた人生は、酷い最期だった。まるで虫でも潰すかのように、簡単に踏み潰された。公安を誘い込むための囮に使われて、自らは爆風とともに生き埋めになる。そんな雑な扱いをされた。
そして、新しい補充要員が投入される。
そうして
世界は回り続ける。
「……最低だな」
あの代用品が?
いいや違う。
最低なのは、この世界だ。
自分がいなくなっても世界が回るのなら、その無念はどうすればいい? いてもいなくてもいい透明人間の慟哭は、いったい誰にぶつければいい? のうのうと生きてしまった罪か? 理想を抱かなかった者の罪か?
いいや逆だ。理想を抱かないから、世界に振るいにかけられたんじゃない。弱者として突き落とされたから、夢を見れなくなったんだ。
そんな回り方をする世界なんてどうかしている。
「……」
いま俺がここにいる理由も、どうせ世界の気まぐれなのだろう。
きっと目の前にいる四人なら、無事に成し遂げられる。それこそ、俺なんかいなくてもだ。
けれど、俺が紛れ込んだのは、たまたまだ。オプションでつけられたおまけだ。
代用品?
馬鹿を言え。
ただ、普通に生きたいだけの人だ。
そいつらに、価値はないのか?
「そんなわけないだろ?」
小学生の頃、「この世に必要でない人間なんていない」と言われた。でも、嘘なんじゃないかと思う時がある。信じられなくなってしまう時がある。
それならいっそ、神に問うた方がいいのではないか? 爆弾でも落として一〇〇〇万人に死を突き付けて、それでも世界は回るのかと。
「ああ、そうだな」
俺は静かに瞳を閉じる。
そして、呪う。
この残酷な世界を。
「お前の代わりはいる」
――
――
「さよなら、俺の
あとは引き受けたよ。
この詰らない世界の殺害計画を。
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