第28話
「まさか、この学園が
だが、問題はその先にあった。
「それで? 僕に何をさせるつもりなんだ? まさか、施設案内がしたいだけじゃないだろうな」
地下へと続く階段をくだる。
螺旋状の階段は、おおよそ高さにすれば三階分だろうか。少し長めの階段は、等間隔に配置された青白い電灯に照らされ、研究施設を彷彿とさせる。とはいえ、この学園自体がカモフラージュというには、地下施設だけ妙に新しさを感じる。それこそ、ここ二~三年以内に増築されたといったところだろう。
「ふふっ。すぐに分かるよ」
階段をくだりきると、少しだけ長い通路となっていた。二十メートルくらいの近代的な廊下。床からの光源が照らす先には、両引きのスライド扉がある。
「言っておくけど、僕だけがいても〈アストラル・クレスト〉の衛星や機器の操作はできないぞ。お前らに協力するにしても、スタッフはどうするんだ?」
「いいや。基本的に君は〈アストラル・クレスト〉のシステムのアクセス権だけ譲渡してくれればいい。要するに乗り物だけ貸してくれればいいんだ。後は、ボクらでやるからね」
ふふんと、鼻を鳴らす
「……なッ!」
僕は飛び込んできた光景に、思わず驚きの声を上げた。
開けた空間。壁に並べられた電子機器。高い天井では、ホログラム投影された地球を模した球体が浮かんでおり、その周りを人工衛星と思しきアイコンが周遊している。そして、最も驚いたのは部屋の中央に並べられた数台の卵型のカプセル。
そこはまるで〈アストラル・クレスト〉の二十一号室。足を踏み入れた瞬間、空間転移異でもしたんじゃないかと錯覚してしまうほどには、瓜二つの構造が、目の前に再現されていた。
*****
「この技術を、いったいどこで?」
思わず僕は
「驚いているのは、ボクたちの方さ。
「……」
「それとも、
泥棒。盗作。卑怯な犯罪者。……いくつもの罵倒の言葉が、思い浮かぶ。だが、思い浮かんだ途端に、その言葉は僕に突き刺さる。
ただの女の子が、
それに、カプセルの案にしたってオリジナルじゃない。元々の始まりは、僕のお姉ちゃん――
けれど、お姉ちゃんは、本物の天才だった。落書きした後の数日間は、お父さんの書斎に引きこもっては、各種論文を読み漁ったり、自らもデータ処理をおこない、ついには完璧な設計図を作り上げてしまった。お姉ちゃんが残した規格。僕はそれを形にしただけに過ぎない。だから、
「じゃあ、ここから世界中でテロを? 〈リモートウォーカー〉を使って?」
「限定的にだけどな」
答えたのは
「〈リモートウォーカー〉の動力の確保や、通信面の安定性を考慮すると、やはりインフラが整ってる場所でしかまだ十分には活動できない。下手に戦場のど真ん中で止まって、鹵獲でもされたら技術的な占有が崩れかねないからな――」
そこで
「――それに、お前なら分かると思うが、〈リモートウォーカー〉を国境間で移動させるにもコストがかかる。資金の面でも、労力の面でもな。一台当たりの単価もでかい。量産体制が整うまでは、人力を頼るしかない」
「へぇ。なら、量産体制が整えば、ロボットで自爆特攻ができるようになるな」
「皮肉が得意なんだな」
「いや。いまのは割と本心かな。少なくとも、ミスって大気圏ダイブをするような使い方をされるかは、何倍も有用な使い方だ。……それでこれまでに、二機の貴重な機体が蒸発したよ」
「惜しい機体をなくしたな」
「ああ。本当に困った先輩だよ。――でもこれで、解雇できる理由ができたかな」
僕はタロットカードを取り出して、目を閉じながらシャッフルをする。そうして、僕の行く道を教えてくれと、心のなかで唱えながら、一枚を取り出した。出てきたカードは、意外と言うべきか、やはりと言うべきか、思わずくすりと笑ってしまう。
大アルカナ十三番。
『
「いいよ。引き受けよう。存外、僕は悪役の方が似合ってるかもしれないな」
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