Ⅳ どうしてあんなことをした!
第21話
「よーし! 善は急げだ!」
思い立ったら止まらない行動力は見習いたい部分もあるが、この後のシフトをどうするとか全く考えないで、このまま拠点まで走っていってしまいそうな勢いには、開いた口が塞がらない。
「方針が決まった途端にこれだ。本当に、
あっという間に出来上がった空席。そこに奇妙な静寂が降りてくる。いたらいたでやかましいが、いなくなったらそれはなんだか物足りない。
ふと、ディスプレイの右上を見ると、表示されているのは十五時の文字。ランチというよりティータイムになったなと、取り止めのないことを考える。
頬を撫でるそよ風。穏やかな日差し。見上げると、雲は少しだけ黄檗色に染まり始めていて、一羽のカラスが悠々と飛んでいる。それがあまりに呑気そうなものだから、
「資金集めは大丈夫そう?」
現実に引き戻したのは、
「さっきも言ったとおりだ。なんせ使用用途の面で融通が利かない。プロジェクトに対して大規模に介入される可能性もある。それに、あれだけデカいゴミだ。しかも、利権が複雑に絡んでいる有害ゴミだ。……
「分かった。伝えとく」
「いつもすまない」
さらりと、とんでもないやり取りが目の前で起こっている気がした。
「わ、分かったって、そんな親に伝えるみたいなノリで……。てか、
けれども、蚊帳の外だったのは俺だけだったらしい。俺の発言がおかしかったのか、聞いた途端に
「おいおい。本当に幼馴染なのか? これは本格的に、君も
「……かもね。相談してみる」
溜息をつく
そんなことをされては、本当に自分の記憶力が不安になる。それこそ、俺のなかにも寄生虫がいて、知らない間に蝕まれているんじゃないかと。いいや、突然目の前が俺の知らない世界になってしまったような感覚に陥る。
そんな俺の気持ちをよそに、いよいよ、不気味な笑みを浮かべる
「
*****
初耳だった。
とはいえ、これだけ
それにしても、どこか遠くの世界の寄生虫博士というイメージは、一気に更新される。
そう考えると、やけに
「……世界って意外と狭いんだな」
何気なくこぼれた言葉。
それに
「勝手に広いと思い込んでいるだけだろう? 無限に広がる世界にいるようで、案外ここは直径三メートルのカプセルのなかかもしれないぞ? 君が宇宙遊泳した時みたいにな」
そう言って、
「じゃあ、この世界は
「もちろん冗談だよ……と言いたいところだが、完全に否定できないのが怖いところでね。こうも世界がクソったれだと、誰かが作ったポンコツのなかにいるんじゃないかと思う時があるよ」
「クソったれな世界……」
「ああ。やりたいことをしたいだけなのに、叶えたいことがあるだけなのに、なんだかんだと金と権力を要求される世界。そして、挑戦した人が報酬を得られず、逆にそのツケを支払わなければならない世界だ。本当に嫌になる」
そこで、
けれども、そんな不平不満を言っても、どうにもならないことも
「でも、
「いいや。未来ならもう見たよ。どうやら、引き受けるのが吉らしい」
「ふーん。ならいいけど」
と、二人の会話は宇宙ホテルの話に戻っていく。
どんな未来が見えたのか、これからどんな手順で事業を進めていくのか。
一つの机を目の前にしているはずの俺たち。だが俺には、机が影のように伸びていき、二人だけどこか遠くに離れていくような感覚に襲われる。いいや二人だけではない。そこにこの場にはいない
これまでは、リーダーである
「……俺は?」
そこはあまりに完成された世界。画面の向こう側にあるような世界だ。そんな世界に迷い込んだ俺は、なんなのだろう? 確かに、仕事面では飲み込みが早いと褒められた。だが、俺じゃなくていいんじゃないか? 俺がこのチームにいるのは、蛇足なんじゃないのか? 俺の代わりはいるんじゃないか? ――ふとそんなことを思ってしまう。
もし、たとえここが直径三メートルのカプセルのなかだったとしても、そこに俺は必要だろうか? 別にいなくてもいいんじゃないか?
ここに居てもいいんだよと、
影が落ちて来る。
まるで闇を連れて来るように。
黒羽が目の前に舞い落ちたと思えば、それはカラスのもの。きっと持ち主は、先ほど空を飛んでいた一羽だろう。見れば、すぐそばの床に降り立っている。歩くこと数歩。それから、そのカラスは、俺の方を真っすぐに見つめた。
――お前は異物だ。
そんなことを言われているような気がした。ストレートに、悪い奴なんだと言われた方がまだ救いがあったかもしれない。居てもいいけど、居なくても別に困らない。あってもなくてもいい。居なくても世界は回るんだと。
「俺に……代わりはいる」
その反面、
じゃあ俺は?
バスケではスタメンになれたけど、試合中のメンバー交代があっても滞りなく試合は続いた。最後の試合が終わってバスケ部を辞めることになっても、残された後輩たちは、俺が居なくて困るなんてことはなかっただろうし、なんなら下の代の方が顧問からは期待されている感がある。要するに、繋ぎだったし、よくある代替品だったわけだ。
ましてや、
「お~い」
「……」
「何を惚けているんだ、
「……悪い。ぼーっとしてた」
いつの間にか、俺はカラスの真っ黒な瞳孔のなかに引き込まれていた。目の前を
それがカラスにとっては気に食わなかったのだろうか。ガァッといかにも不快を音にしたような鳴き声を一つすると、空へと飛び去って行った。
「なんだ? 感じ悪いなぁ」
「警告かもよ。
「なんの?」
「今回の
空を見上げる
その視線は飛んでいったカラスを追っていた。
「
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