第20話
「それは……」
俺は返答に詰まった。
心なしか、先ほどよりも冷たい風が吹き込んでくる。傾き始めた日に、
俺を見ていた。それは
「ははっ」
「……」
「そう深刻に捉えるなよ。私は私だ。そうだろ? 同情されたくてこんな話をしてるわけじゃない。それに――」
軽く手招きをする
「――痛ッ!」
デコピンを食らわされた。
額に走る鈍い痛み。突然のことに、のけぞる俺を見て、
「そういえば先輩は、物忘れが激しかったな」
「……!」
「もしかしたら、
*****
遅めのランチ。
「もー、
はじめのうち、一緒に食べていた
〈
「いや、すまない。面倒な案件が飛び込んできてな」
「もしかして、また
「あのなぁ……はぁ。
「しつこいな。断ったんだろ?」
「いや、別件だ」
「?」
「今朝の、宇宙ホテルの事故を受けて、日本政府はトンデモない声明を出したんだよ」
顔を見合わせる、俺と
主な内容としては三つ。一つ目は、事故の原因究明に向け速やかに調査委員会を立ち上げること。二つ目は、各国・関係機関と連携しながら、事故被害者の遺体の回収をおこなうこと。三つ目は、宇宙ホテルを衛星軌道上から退去させるために適切な処置を速やかに実施するとのものだった。
「おー、早い! やるじゃん」
「緊急事態だからだろ? トンデモっていうくらいだから、何かと思ったら、意外と普通というか……このどこが変なんだ?」
俺がそう言うと、ニヤニヤとしている
「なんせ場所が場所だ。普通のホテルの事故とは訳が違う。――まずそもそもの前提として、
「……」
「結論から言うと、どの国にも属していない。どの国の管轄でもない場所で起った事故なんだ。で、次に問題になるのが宇宙ホテルの所有者だが、これがまた厄介でね。オーナーはアメリカ人、運航会社はフランスの会社、打ち上げに関わった中心的な国は日本で、おまけに出資者は世界各国にいる。事故に繋がったデブリが誰のものだったのかによっても、状況は変わって来るだろう」
「あちゃあ、誰に責任があるのか、分かんないねー」
そう言った
「じゃあ、責任者だーれだの押し付け合いが、これから見れるんだね」
「もう起こっているさ。――が、そんななかでの我らが首相の声明だ。この一件の処理は日本国にお任せくださいと言わんばかり。それで世界は大慌てさ」
「おお、かっこよ! 選挙権ゲットしたら投票するわ」
そう言ってから、
「いや。単純にその辺の事情を理解せずに発せられたポンコツな善意だろうな。果たして、直径二〇〇メートルのトーラス状の粗大ごみの処理費は、どこから出るんだろうね」
「そりゃあ……。国民の血税でしょうねぇー」
「で、予算が確保できたとして、誰が処理するんだ? というか、どこの省庁の管轄なんだ? 運交省か? 科学省か? あるいは内閣府か? 内閣府だとして、デブリ除去する装備や技術を持っていた記憶はないが……」
「まぁ、民間に外注するでしょうね」
「例えば?」
「〈アストラル・クレスト〉とか?」
その答え合わせと言わんばかりに、
「宇宙ホテルの後片づけを、民間に外注する方針の閣議決定がなされる見通しだそうだ。当該企業には五〇億の補助金を出すとのこと。企業についてはこれから募集し、コンペをする形をとるそうだが……そうしているうちにスペースデブリは鼠算的に増え続ける。〈アストラル・クレスト〉が引き受けるというのなら、内定してしまうから、早速取り掛かってほしいとのことだ。入金時期については要調整らしい」
「……って待て! 五じゅぅぉ……」
「前よりゼロが二個増えたな」
さらりと告げられたことに冷静になっては、卒倒しそうになる俺。そんな俺を面白そうに横目で見ながら、
いや、提示される巨大な額に、驚いているのは俺だけだった。
と、口のなかが一旦空になったのか、
「で? 受けるの?」
その言葉に、俺と
いいや、
「正直なことを言えば、気が進まない。政府からの金は使用用途にうるさくて、ペン一つ買えない時もあるからな」
「……」
「だが、面倒な会計業務は
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