第19話
「いやぁ、お疲れ、お疲れー!」
快活な声と共にどこからともなく
「ん? なんかあった?」
「なんかあった? じゃねーよ。お前の
「え、来てたの? ごめんごめん。ちょっと別件で店長に呼び出されてて。新メニューについて議論を――」
「はぁ……」
もし、さっきの場に
「そうだ! みんな、朝から働き詰めで疲れてるでしょ。特に
疑問系の問いかけだったが、
「じゃあ、二人は先にバルコニーに行っといてー」
そう言ったかと思うと、
完全に
そこにはいつもの
*****
場所のセンスは完璧だった。
わざわざバルコニーに行くのか、と最初こそ思ったが、吹き込んできた風と広がる景色に心を奪われる。
小高い丘の上からの、なんでもない風景であると言われたらそうかもしれない。開け放たれた空と、丘下にずらりと並ぶ住宅街。その真ん中に俺たちが通う学園が鎮座している。学園の名前は
白波が打ち寄せる。
扇状に広がる海岸線が、その終着点だ。
浜に辿り着いては静かに消え、あるいは崖岩にぶつかっては砕け散る。潮騒が、波音が、ウミネコの声と一緒に聴こえてくるようだった。燦めく青の水面に浮かぶのは漁船だろうか。漁港からの船の出入りは、まだ「波の前」だった頃からの営みを教えてくれているような気がした。
「いい場所だろう?」
海風に招かれるようにして
空と海の境界線。一段と深い青になっているのは、交わりの向こう側に宇宙が広がっているからかもしれない。俺が見えるのはせいぜい、空と海に囲まれたこの場所くらい。けれど、
「未来視なんてできたんだな」
「……」
少しの無言の後、鼻で笑う音が聞こえた。
「軽蔑したか?」
「なんで?」
「いや、これから軽蔑するのかもな。この能力の由来が知りたいんだろう?」
「物心がついた頃だった。私の言ったことが次々と現実になるから、両親は驚いたよ。最初のうちは、凄いと喜んでいたが、母親は段々と心配になって、専門機関に駆け込んだ」
「そんな場所があったのか?」
「無いさ。私が送られた先は病院。これは超能力でもなんでもない。私は未来が見えるという病気を患ったのさ」
すぐに
「結局、色々とたらい回しにされた私が最終的に出会ったのが、
「……ぬけみかわ?」
「おいおい、もう忘れたのか? 寄生虫研究の一人者として、
「……」
完全に忘れていた。
それにしても、やけに物知りだと思っていたが、知り合いだったのかと合点がいく。だが、「どうして、また寄生虫が出てくるのだろう?」と思ったところで、俺はハッとした。
そして、俺が何に気がついたのか悟ったのだろう。
「〈
「どうして……」
「さあ。ただ、
さっきは見苦しい姿を見せたなと、
感情の操り方が分からなくなる。
……そして、人との関わり方も。
「私はただ、未来を見ることができる不思議な子だったハズなんだ。それがある日、宇宙ホテルの事故で大勢の人が死ぬ未来を見た。恐怖したさ。そして、防げるのは自分だけだと焦燥感を抱いた。未来を変えたいという信念に突き動かされて、〈アストラル・クレスト〉なんていう会社を作った……。でも振り返れば、私の意志だったんだろうか? 私のなかにいる怪物に、操られてただけなんじゃないか?」
「……」
出会った頃から、変な奴だとは思っていた。
でも、話を聞く限りでは、〈
「いいや、そもそも、いま先輩と喋ってるのは誰なんだろうね。
それとも。
「〈
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