第17話
「何の用だ?」
朝から個人鑑定をしてきたことで疲れが見えたのか、あるいは
見た目は爽やかな好青年。しかし、ふとした瞬間に、どこか
いったい何者なんだと訊きたい俺の気持ちが伝わったのだろうか。
「
「簡単に言えば、衛星やスペースデブリの位置情報を提供する仕事をしていてね。自分で言うのもなんだけど、御社〈アストラル・クレスト〉のお得意様みたいな感じさ」
「……なるほど」
名刺をポケットにしまう俺。と、納得しかけたところで、「なにが、なるほどなものか」と
「真に受けるなよ先輩。そいつはホラ吹きのペテン師だ」
「ははは、随分な言いようだね。それにしても、今日はいつもに増して機嫌悪いね。なにか嫌なことでもあった?」
「お前のことだ。分かって訊いてるんだろう?」
「朝のニュースのことだろう? 僕もびっくりしたよ。今日はそれ関連で相談したいことがあって来たのさ」
チッ、と
困惑しながら、空をなぞってニュースを検索する。
ただ、どれだろうと探すまでもなかった。トップに躍り出ていたのは「宇宙ホテルで事故、滞在者の生存は絶望的――スペースデブリの衝突が原因か」との見出し。俺は目を丸くしたが、同時に
「ついに恐れていたことが……って感じかな? スペースデブリの衝突が原因らしいけれど、これじゃあ本当に頑張って来た君が報われないよ」
「いいや、むしろいい気味だ。放置し続けたからこうなった。当然の帰結さ。傍観者たちが引き起こした悲劇だ。私がいくら訴えかけようと、出資を渋って来た御社も同罪だ。国も、世界も、誰もが問題に気が付きながら、なにもやろうとしなかった。問題解決に向けて懸命に努力する人たちに、手を差し伸ばして来なかった。そのツケがこれだ」
そんな言い方しなくても、と思ったが、明らかにいまの
と、そこへ
トレイには、ホットココアとバームクーヘン。「お疲れ様」と言うと、
「あ……あぁ。ありがとう、
「根詰めすぎ。それに今回のことは
「でも……」
「やれることはやったよ」
それが引き金だった。
よしよし、と抱擁する
「防げなかった……分かってたのに!」
俺はというと、ただ戸惑うことしかできなかった。確かに、聞く限りでは宇宙ホテルの事故は、予測できたのかもしれない。それを防ごうと必死になっていた気持ちも理解できる。
でも、なぜ泣くほどのことなのだろうか。少なくとも、普段の
ただ、この場にいる俺以外は、その理由を知っているようだった。
「それで、ご用件はなんでしょう?
対して、
「僕はなにも虐めに来たわけじゃない。相談があって来たって言ってるだろ。……あー、もう調子が狂う。僕だって、君たちの理念には共感している立場だ」
「……」
「でも……。いや、だからこそ言って欲しかった。――
*****
「未来視……? 的中率九〇%……?」
にわかには信じられなかった。
だが同時に、パズルのピースがはまったような感覚になる。かなり強気の価格設定で、占いをしている理由も。それで商売をして収益が見込める理由も。普段の何もかも見透かしたかのような言動の理由も。〈アストラル・クレスト〉の運営をこなせる理由も。そしてなにより、スペースデブリ除去に躍起になる理由も。
もしも、
と、それまで
「言っただろ! 何度も、何度も、何度も、何度もッ! いずれスペースデブリがたくさんの人の命を奪うことになるって! 忠告は何度もした――」
「落ち着いて」
癇癪を起し始めた
そんな
「どこから話そうか……。そうだな。落ち付いて聞いてほしいんだが、僕たちは報じられた事件に懐疑的だ」
「というと?」
「宇宙ホテルに衝突したデブリの軌道を分析したんだ。その結果、デブリの衝突は意図的に引き起こされたんじゃないかと、いまのところ弊社は、そう結論付けている」
「なるほど。では、その犯人を見つけるために手がかりを知りたくて来たと?」
「話が早くて助かるよ、
そう言って、ほほ笑む
月に雲。
まるで真実を隠しているような。
朧げで掴みどころがない。
なにより、
「当てがハズれたな。犯人? 知らないよ。事故じゃないんなら、なぜそう報道しない? 事を荒立てたいだけだろ? たとえ、仕組まれた事故だとしても、どうせ
「言いにくいけど、僕は少し〈アストラル・クレスト〉を疑っていた」
平然と言った。
表情を固める
それから、
「なんでそ――」
「きちんとした証拠はない。でも、今回の一件で君たちは少なくとも得をしてる側なんだ。実際、この騒動に乗じて〈アストラル・クレスト〉の株価は上がっている。そうだろ? でも、まぁ……うん」
「――それで、
最初、
ぽかんとする
いや、どうだろう? 同時に、瞳の奥からは「次はお前だぞ」と声が聞こえてくるような気もする。とことん読めない人物像に、変な汗が頬をつたった。でも、単なる思い違いかもしれないと思えるほどに、たった一瞬の出来事でもあった。
「そう。だから、ここに来た目的の四分の二くらいはもう果たしてるんだ」
「約分しろ……。くそ……あと二個も付き合わされるのか」
「実は、犯人の目星はついてる。でも、決定的な証拠がなくてね」
「お前のくだらん推理の犠牲者だ。そいつも冤罪だろ」
「うん。そうかもしれない。だから、いま動くべきか、そうでないかを占ってほしい」
「お前は出しゃばるな。余計にややこしくなる。以上だ」
「動かないと第二第三の犯行が起こるかもしれない。それでもいいのかな? さっき君は、僕のことを傍観者呼ばわり――」
「ああっ、もう! うるさい! 分かった、見ればいいんだろ、見れば! その分はちゃんと払ってもらう!」
それを聞いて、ニコリと笑う
占いを見るのは初めてだった。渦を描くように混ぜられるカード。その中心に運命の行く末を見定めようとする
机いっぱいに広がった運命。
渦を巻き、あるいは重なり合い。
一つに収束していく。
最後に、トントンという音とともに一つの山札にまとめられて、準備が完了する。先ほどまで感情をむき出しにしていた
「では、はじめよう」
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