第13話
「引き受けない? どうして……?」
困惑する俺。
「理由か。多すぎて、何から話せばいいか迷うが……そうだな。まず、私はあのホテルの印象について先輩に訊いたな」
「ああ」
「あそこは本当に、母上らしい醜悪な場所だ。私自身、あんな窒息しそうな場所、誰が好きなんだと思う。……と思いたいが、どうやら、ああいう悪趣味な場所が大好物という人もいてね。この国で信用できない奴らほど、好む傾向にあるらしい」
「信用できない奴ら?」
「政治家だよ」
「……すごい偏見だな。というか、私怨だな」
「そうだ。言ってしまえば、生理的に無理というやつさ」
口に手を当てながらくつくつと笑う
「これが与野党の攻防とやらだ。皮肉で言ってみたが、あんまり気にしてる様子ではなかったな。あしらわれたのか、それか図太いのかは分からないが」
「……随分と責めたことしてたんだな」
「と、まあ。こんな具合に、随所で引き受けないオーラは出していたのに、全然察してくれないから困ったよ。
「難しいんだな」
「正直、吐きそうだったよ。なんせ目の前にいるのは大罪人だ」
えらく、強い言葉を使うなと思った。とはいえ、それくらいのことがあるのだろう。俺は
「
「凄い人なんだな」
「ああ。おかげで、この国の水素製造に携わる人々が冷遇され、日本の生産能力は落ちた。口ではこの国の産業を育成するとか
「言うなぁ……」
「ああ、もちろん宇宙に行くために水素は欠かせない。生産能力が落ちたことを受けて、〈アストラル・クレスト〉の株価も落ちたよ。まぁ、なんだ。余罪はまだまだあるが、つまり奴は日本の産業ブレイカーなんだよ。そんな奴が、『民間主導で』などといったところで何も響かない」
そして、重要なことだが、と
「そもそも、なんで私が寄生虫の世話なんかしなきゃならない?」
「?」
「可笑しいだろう? だって、〈アストラル・クレスト〉は宇宙産業。〈
言われて、俺は「あ……」と声を漏らした。考えてみれば当然だ。いや、考えなくても当然だ。途中から、
「それから……何って言ってたかな? 『〈
「言っちゃえよ」
「ああ。だから、言ったじゃないか。この分野では、
「そこまで……知って……」
その知力。
情報収集能力の高さ。
またしても、圧倒的な差を見せつけられて、俺は大きく唾を飲み込んだ。そして
「いずれにせよ、いまごろ〈
「それどころか、公安でも独自で研究進めてるって聞くし、本当に省庁間で連携取れてないよねー」
と。
それまで食事に夢中だった
見れば、いつの間にか十皿くらいが目の前に重ねられている。「食った食った」と幸せそうに腹をさすりながら、ナプキンで口を拭う姿には、話の内容も相まって、俺も含めて残り三人は絶句した。
「あと、国防省も別角度から研究してた気がする。某国との共同研究で、有事の際のシミュレーション……だったかなぁ? うん、後で調べとくね!」
「……。……とまあ、各方面で独自に進んでいるわけだ。だから
「それに、五〇〇〇万って言ったってはした金だしねー。そもそも国民の税金なわけで、使用用途に関してはわけ分からんくらい厳しい基準で省庁から口出されるし」
「まぁ、〈アストラル・クレスト〉が万年金欠なのは、一発一〇〇〇万する誘導弾を
「ねっ。五発しか撃てないね!」
だんだんとわなわなと口を震わせて、目に涙を浮かべ始める
その横で俺は愕然とする。
そして、手が震え始めた。
思い出すのは〈アストラル・クレスト〉の拠点へ行った日。スペースデブリの除去をおこなった日のことだ。
「あれって……一発……一〇〇〇万?」
「そっ、
「……」
あっけらかんと喋る
口から魂が抜けていく俺。
そして
「なぁ、
「畏まりました。それでは本件を奥様に――」
「冗談だよ。……多分……きっと……おそらく」
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