第8話
「……」
「……」
なんとなく気まずい。
図書室を出てからというもの、無言の時間が続く。話があると言うから、自販機まで散歩する
のらりくらりと揺れるポニーテール。脱力感を覚える佇まい。それでいて、その背には一本の筋が通ってるように感じてしまうから不思議だった。
俺はと言うと、もう隠す必要のないセピア色のノートを手にしながら、けれど半歩後ろを歩く。すぐに話を切り出してくれたら、自然なかたちで隣に行けたのだが、早いのだか遅いのだか分からない
と、自販機のある渡り廊下に差し掛かり、半歩の距離が一歩になりかけたところで、ようやく
「そういえば、〈アストラル・クレスト〉に一本釣りされたんだってね。おめでとう」
「お、おう。ありが……とう? というか、話が早いな」
「
「なるほどね……。てか、知り合いだったのか?」
「まあね」
お前って意外と顔が広いんだなと言いかけて、言葉を飲み込む。なんとなく
なら、どう呼べばいいんだろう。あだ名みたいな感じで、「フウ」と気軽に呼べたら逆にいいのかもしれないが、それはそれで急に距離を詰めすぎる気もする。「
「でも、どこで知り合ったんだ? 他校の奴だろ? バスケやってた時の知り合いとか、そんな感じか?」
ピタリと止まる足。
お目当ての自販機の前まで来たということもあるが、それ以上に俺の言葉に驚いたのか、訝しそうな表情を俺に向けた。あまり踏みこんではいけない話題かと瞬間的に焦るが、どちらかというと信じられないものでも見ているといった顔だった。
「それ、マジで言ってる?」
「?」
「他人に興味ないのか……それとも健忘症なのか……。忘れっぽいのは相変わらずだね」
「?????」
屈みこむ
忘れっぽいと言うのは、確かに昔から言われてきたことだが、何か呆れられるようなことを言ってしまっただろうか。分からない。そして、
「
*****
俺は凍り付いた。
同じクラスメイトに、あんなハチャメチャな奴がいたという事実もそうだが、それを忘れてしまうなんてことがあるだろうかと、自分の記憶力の無さに混乱し始める。
「まあ確かに、最近は〈アストラル・クレスト〉の方で忙しくしてるみたいで、学校に来ない日もあるみたいだけど」
「それを先に言えよ……。てか、原因は絶対それだろ。いたら忘れねぇよ、あんなの」
「あんなのって……。一応、私の親友なんだけど?」
「ッ! ご、ごめん!」
すぐさま頭を下げる。
妙に
読み取れないどころか、実は
「……」
俺は手に持っていたノートに力を込める。
だからこそ、
普段は誰も来ないような図書室の、しかも誰も見ないような禁書コーナーにあるノートだ。気が付くのは
とりわけ、星や天体に興味があるんだというのは、初耳だったし、思えば交換日記でのやり取りが、自分も宇宙に興味を持つきっかけだった。
でも、交換ノートでやり取りをすればするほど、
「あ、そうだ」
「?」
「忘れかけてたんだけど、そのノートさ――」
心臓が縮む気がした。
不意打ちのように、ノートに言及するキレ味。しかも、同じようなトーンで話が繰り出されるものだから、覚悟を決める時間などあるハズもない。一体何を告げる気だと、視界が眩む気がした。
が。
そこで横槍が入った。
「おお、
背後から聞こえた男の声。
振り返れば、白髪混じりの丸メガネの中年。白衣を身に着けた、教師の
「君に頼みたいことがあるんだ。いいかな?」
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