第3話
「さ、先輩。服を脱いでくれ」
「……はぁ?」
施設に着いて第一声。
俺は更衣室に通されていた。
連れてこさせられたのは、山中にある〈アストラル・クレスト〉の施設だった。その外観は、半球の屋根が特徴的な建造物で、はじめは天文台かと勘違いしたものだ。とはいえ、その直感は正しく、数年前に閉鎖予定だった天文台を買い取って改築した場所となったらしい。
また、天体を観測する機能は健在らしく、なんなら年に一度のペースで一般公開のイベントを開催するのだとか。普段は、〈アストラル・クレスト〉が運用する衛星の管理をする重要な拠点となっているとのことだった。
なるほど。衛星から送られてくるデータを見せてくれるという話だろうか……。そうかと思いきや、案内されたのは応接室でもなければ、管制室でもなく、更衣室。
そして、目の前に用意されたのは、ダイビングスーツのようなトンデモ衣装だった。いいや、身体の節々に特徴的な突起物があることから、モーションキャプチャスーツと表現するのが妥当だろうか。
「これは?」
「
「これに着替えろと?」
こくりと頷く
相変わらず何がしたいのか分からない。だが、〈リモートウォーカー〉という名前には聞き覚えがあった。宇宙開発関連の特番が組まれた際に、〈アストラル・クレスト〉の持つ技術として紹介されていたからだ。
〈リモートウォーカー〉というのは、要するに遠隔で動く人型ロボットだ。この人型ロボットは、普段は宇宙空間に待機していて、これを操ることで、宇宙に行かずとも地上から様々なオペレーションができると言うのだ。
と、そこまで思い出したところで、俺は
「つまり、これから〈リモートウォーカー〉のパイロットになれと? 宇宙に行くって、そういう……」
「おや、知っていたのか。……いや、君なら知っていて当然か」
「じゃあ、やっぱり実際にってわけじゃないんだな」
そう言うと、
「おっと。なんだかんだ言いながら、期待してたんじゃないか」
「……ッ」
「もちろん、お望みとあらば、実際に連れて行ってあげるのもやぶさかではない。ちょうど、〈アストラル・クレスト〉も宇宙旅行事業に参入しようと考えていたところでね」
「だが、何事にも予行演習は必要だ。何の準備もなしに無重力空間に飛び出して事故があったら困るだろう? 今日のところは、疑似的な旅で君の様子を見させてくれ」
「おい。なんで俺が試される側なんだよ?」
俺は
実際に宇宙に行けないのは半分残念だが、しかし同時に安堵している自分もいた。
「……なぁ、これ着ないとダメ――」
と。
ドアが開いた。
「
快活な声と共に現れた少女。
彼女は
*****
「紹介しよう。〈アストラル・クレスト〉所属の専属パイロット。そして、今日の君の宇宙遊泳をサポートしてくれるスタッフ――
跳ねるように近づいてくる少女。
紹介された俺の方をくるりと向けば、ショートカットにもかかわらず黒髪は揺れ、俺に詰め寄れば、横髪はふわりと浮かぶ。次に飛び込んできたのは、明星のような琥珀色の双眸。その明るさと勢いに、俺は圧倒されてしまった。
「おぉ! 誰かと思えば
「知って……るのか?」
「そりゃあ、有名人だもん!」
「そう……なのか?」
「そうそう! まぁ、こっちの界隈では~の話だけどね」
「は……はぁ……」
纏っている雰囲気からして、きっと同い年くらいなのだろうが、無邪気にはしゃぐ様から何となく年下を連想する。だがそれは、幼さ以上に、若さや勢いを感じさせるからだった。
華奢な人物。背丈はそれほど高くないが、運動はできそうな印象を持つ。実際に彼女の
なるほど、いまからこれを着るのか。……と、
――もしかしたら、
「? どうかした?」
「あ……いや……」
「うん! 今日はよろしくぅ! じゃあ早速、着替えよっか!」
「……え?」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
いや、気がついたとしても、その早技には追いつけなかったかもしれない。
「よっ!」
勢いある布ずれの音。
途端に寂寥感を覚える股間部。
ズボンは下着と共にずり下ろされていた。
「――ッ!」
「ほい! じゃあ次は――」
飄々とブレザーに手をかける
後ろの方でニヤニヤしている
そして俺は、断末魔の叫びを上げた。
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