乾いた朝
日が暮れた頃、なんとか町までたどり着いた。
建物は赤みがかった石材を組み合わせて建てられている。窓は小さく、天井付近の壁には通気口がある。
どの建物も似通った形で、使用している石材も同じだ。看板が立っていなければ店の判別なんて不可能に近い。
唯一違うの建物は、町北部の3階建ての砦だけだ。僕達には用事のない場所だろうし、方角確認くらいにしか役立ちそうもない。
しかし、この町なんだが既視感がある。
「なあ下野、なんとなくこの町さ……」
「同じ事を思っていたか。いやぁ、どこぞのサンドボックスゲームの村に似た雰囲気を感じるぜ。まさかあのゲームの世界に入り込んだという訳か?俺、こっちの世界に飛ばされる前にプレイしていたし」
「もしそうならもっと角張ってないとおかしい」
「いやいや、あの世界の住人からは角張って見えていない可能性もあるだろう?」
「それにしてはリアリティが高すぎるだろう。喉だって乾くんだ」
「おっとそうか。あのゲームには空腹度はあるが喉の渇きを表すメーターはなかったな。じゃあ違うか。面白い妄想だと思ったのだけどな」
「そんなことよりだ。宿を探そう。いい加減2人とも限界近いぞ」
「それはいえてるな。俺もお前を支えるのに疲れてきている」
足を引きずり、一軒一軒看板の立っている家を訪ねるが、どこも満員らしい。
それもそうだろう。宿屋とは言うが、普通の居住宅と広さは変わらないのだ。宿主の居住スペースと最低限の設備を備えているのであれば、泊まれる人数はせいぜい4人くらい。ドミトリーのような形でなんとか8人が寝泊まりできる程度だろう。
しかも、この付近は危険な生物が生息しているのだ。野宿などとてもできないから、砂漠へ行き来する行商人や旅人は町の宿に泊まる他ない。
つまり、宿は早い者勝ちで、遅く来た奴らは質の悪い宿に泊まらざるをえない状況になる。まさしく、今の僕達がそうなのだ。
歩き続けてようやく見つけた宿は酷いものだった。
クラックだらけの壁。部屋は狭く、壁に木の板を取り付けただけの簡易的なベッドが4台。敷布団などなく、あるのは継ぎ接ぎだらけの薄汚れた毛布が一枚だけだ。荷物の置き場もなく、セキュリティーなどないと同然だ。
他に宿はないから移動することもできない。我々の他に宿泊客が1人しかいないのと、獣に襲われないだけマシだと思うしかないだろう。
何か食べ物を食べたいとは思ったが、それよりも眠気が勝つ。
ベッドから毛布をどけて、汚れをはたき落として寝転んだ。
勿論寝心地は最悪だ。翌朝目を覚ましたらきっと身体中が痛むだろう。
下野は同様に毛布をどけて、自分の衣類をベッドに敷いて少しでも快適に寝ようとしているようだ。きっと効果はないだろう。
暫くして眠りについた。しかし全く安眠とはいかない。寝ては起きてを何度か繰り返して、なんとか夜明けまで過ごした。
疲れなど取れるはずもなく、ただ身体を痛めただけのように感じる。
足の疲れは少し取れているように感じる。それだけでも寝た意味があったとポジティブに捉えよう。
下野の方に目をやるとぐっすりと眠っている。下に何か敷くだけでも意味があったのだろうか。それとも、単にどんな環境でも眠れる体質なのだろうか。
下野が目を覚ますまで暇になった。息苦しさのある部屋から出て、外の空気を吸うことにした。
空は相変わらず気持ちの悪い色をしている。太陽が地平線から昇ってくる様子が見えるが、現実世界で見るような爽快感など感じない。暖色系の色をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせたような歪な色でこちらを不安にさせてくる。
深呼吸して、固まった身体を伸ばした。空気は乾燥していて乾いた喉に触れて咳き込む。なんとも目覚めの悪い朝だ。
気分は落ちているが、今日もこの乾き切った草原を歩かなければならない。
『元の世界に帰りたい』
その願望が強くなるのを感じた。
雑学好きの異世界放浪 ひぐらしゆうき @higurashiyuki
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