箱に入った六芒星〜モフモフ王より〜

蘇 陶華

第1話 南より、死を運ぶ馬が来る

山神は、その小さな箱を見下ろしていた。忌まわしき記憶が蘇莉、首から胸にかけた傷が疼く。

「これだろう?これが原因なのだ」

腹違いの弟、陸羽は、興奮して崖の上にいる陸鳳に、箱を抱え上げていた。

「どこから、見つけた?」

山神の本来の姿、狼の姿のまま、陸鳳は、低く唸った。これが全ての元凶だった。その小さな箱は、菱形をしている。今は、六芒星の中心、古城の柱の根元に、幾つかのパズルが組み合わさった様な壁がある。その中の一つに、この菱形の箱が、入っていた。

「桂華が、見つけた」

本当は、その名前を言いたくなかった。自分と一緒になるはずだった桂華は、もう、自分とは会ってくれない。それでも、陸鳳の呪縛を解きたくて、陸羽は、託された箱を持参した。

「その箱は、いつ、抜いたのだ?」

「箱を抜いた?」

・・・その箱を抜いたら、六芒星の中心である古城は崩れる。中心が、崩れてしまえば、六芒星は、内側に倒れる。街の消滅だ。

「箱を届けてくれたのは、ありがたいが・・」

陸鳳は、六芒星が守る街の方向を見下ろした。柱の中心を抜いたのに、まだ、崩れてはいない。

「何が・・起きているんだ?」

陸鳳は、陸羽の元へと降り立った。

「これを。陸鳳に渡してくれと・・・」

陸羽は、桂華に止められていたが、

「やっぱり、俺は、黙っていられない」

真剣な陸鳳の眼差しに負けてしまった。

「この箱の代わりに、桂華が、陣の中心を支えている。そこまで、して、陸鳳を助けたかったんだ。この箱だけが、兄上の呪縛を解く鍵だから」

「そんなの、必要ない」

陸鳳が、手を払うと、陸羽の持っていた小さな箱は、宙を舞い、地面に転がり落ちた。ちょっとした加減で、壊れそうな箱は、くるくる周り、重なった蓋の隙間が、開いていた。

「何も、入っていない?」

「そうだ。これは、何かを隠す為の箱ではなく、呼ぶ為の箱だ」

箱の隙間から、何か、白い煙の様なものが立ち上ると、たちまち、南の空に黒い雲がかかり始めた。

「何かが、来る」

陸羽は、そう感じると、今まで、陸鳳の板崖の上へと駆け上がっていった。

「陸羽!今すぐ、そこから、降りるんだ!」

「何?」

陸鳳は、駆け上がると陸羽を庇うように転がり落ちた。その2人を追いかける様に、炎に包まれた立て髪の長い一頭の馬が姿を現した。

「箱を抜かれた陣が呼んだのは、死の馬だ」

「死の馬?消滅するのか?」

「確かに、このままでは、消滅する。だが、誕生を司るネズミがいれば」

「リファルは栗鼠だぞ」

「いや・・・尻尾が大きいから、栗鼠かと思ったが、ネズミだ。しかも、守護する方位は、北。創宇が、守護した方角だ。両者が戦い消滅すれば、再生。陣を眠りに付かせる事ができる」

「どうやって、リファルの所まで、連れて行く気だ?」

死の馬を、誘導するのは、危険だ。山神とて、例外ではない。陸鳳の呪縛を解く為には、死の馬に焼き殺される事を意味していた。

「再生させる為には、皆、消えろって事なのか?」

陸羽は、奥歯を噛み締めた。どの選択も、創宇の思い通りになった。


・・・雪別れ道のモフモフ王 妖鬼冥婚編に続きます・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

箱に入った六芒星〜モフモフ王より〜 蘇 陶華 @sotouka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ