白歴史しか無い
夏空蝉丸
第1話
正直、紹介文に書いた通り黒歴史なんかまったくない。ホント、凡庸でつまらない人間でごめんなさい。そう言いたくなるような人間が私だ。だから、華麗にスルーって思ったんだけど、伊集院さんや市川さんに読んでもらえるかもしれない。などとミーハーなことを考えて、読者のみんなが通り一遍やっているような子供時代の思い出とかをツラツラと書いてみることにする。
私が小学生、多分、低学年で小学一年生とか二年生の頃のことだ。当時は、第二次交通戦争とか呼ばれていた時代で、調べると、今より交通事故の多かった時代だったらしい。でも、私が住んでいた団地は、やっすい団地だったから家の前の道幅がやたら狭くて、車とか殆ど通らなかったような道だった。
だから、私たちはそこで野球をしたり、ローラースケートをしたり、鬼ごっこをしたり、と空き地とか公園レベルで使用していたんだ。
子育て団地とか親たちは勝手に名付けていたその団地には、同年代の子供が多くて遊び相手に困ることはなかった。隣の家に住むターコロって少年も同じ歳でよく遊んだんだけど、まあ、こいつは遊び相手としてはあんまり良いやつではなかった。
私はターコロのことを心の中で、スネちゃまって呼んでいた。何かあるたびに自慢をしてくるんだ。自分の名前を書ける。とか、算数ができる。とか、ドコドコへ遊びに行った。とか。まあ、小学生低学年の頃の話だ。大人になってしまえば、どうでも良いくだらないことなんだけど、小学生低学年ではそんな感情のコントロールは出来ない。
ターコロのことを内心、嫌な奴。と思っていた。もっとも、大人になってもどうでも良いことでマウントを取ってくるヤツがいるので、その頃に耐性を得られたのはターコロのおかげかもしれない。ありがとうターコロ。
さて、そんなターコロがいつものように、自慢をしてきた。その時は、『亀』である。
いや、ね、今、思い出してみると、どうでもいいじゃん? 亀。別に好きじゃないし。なんだけど、当時は小学生低学年。ターコロが水槽に何匹かの亀を自慢気に見せびらかしに持ってきたのが気に入らなかったわけよ。
「よく見えないなぁ。何匹いるのか出してみせろよ」
私は透明な水槽の中にいる亀が見えない。って意味不明な理屈をつけて、ターコロに道路に亀を並べさせたわけ。
「で、いつ買ったの?」
「昨日だよ。すげーだろ。亀だぜ。こいつら、一万年くらい生きるんだからな」
生きるはずがない。
今なら即答できるが、重ね重ね言うが、当時は小学生低学年。くっ! っと、敗北感に苛まれながら、
「そっかー、頑張って飼えよ」
としか言えなくて、私も亀がほしーって洗脳されかかって、ターコロの偉そうな態度に打ちのめされていたその時、クラクションが鳴ったんだよ。
うちの団地、しかも、私とターコロの家はそこそこ大きい市道と市道をL字で抜けれる抜け道みたいになっているんだけど、道は狭いし対向車が来たらすれ違いも出来ずに市道を通るどころじゃない時間がかかるから、抜け道として使用する車なんて普通だったらいないんだけど、たまたま、何かしらわからないが、本当に偶然的に車が来たんだ。
しかも、子供がいるのにクラクションを鳴らしてどかそうとする頭のおかしい車が。
「やべぇぞ。逃げろ」
勿論、私は速攻でターコロの家の庭に逃げ込んだ。時速としては、二十キロくらいじゃないか。って思うんだけど、止まる気がないのが明らかだったからね。
多分、トイレに行きたくて必死だったんじゃないかな。あの運転手。もしくは、スパイか何かで、公安に追われていたとか。
どんな事情があるのかわからないけど、轢き殺してでもおしまかる。そんな
でも、ターコロは動かなかった。
「亀が……」
「自分の命を大事にしろ」
私は思わず叫んでいた。ターコロはスネちゃまでマウントボーイで嫌なやつではあったが、友達でもあった。遊び相手だったし、時々、変顔をして笑わせてくれた。こんなところで死んで良いやつじゃなかった。
「早く来い!」
私が手を伸ばすと、ターコロも手を伸ばすから思い切り引っ張った。
間一髪、ターコロの横を車は通り抜けていく。そして、そのまま五十メートルくらい走り抜け市道に戻っていった。
「危なかったな」
ふぅ。と、額の汗を拭う私の横でターコロがその場に崩れ落ちる。
「亀が……」
亀がいたあたりを見たが、亀の姿はなかった。ペシャンコ。にもなっていなかった。どこに行ったの? と言わんばかりにその姿は失われていた。
と、ここまで書いて気づいたことが一つある。やっぱり、これは黒歴史ではなかった。亀には悪いことをしたかもしれないが、私は何も黒くない。単なる思い出話だ。
他には、爆竹の話とか、高校生の合コンの話とか……やっぱり黒くないのでやめておこう。どうせ、読みたい。などという人もいないだろうしね。
白歴史しか無い 夏空蝉丸 @2525beam
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