瘴触

「・・・ってことなんですよ、梓さん。どう思います?」


「・・・そうですねぇ・・・・・・」


 いつも、まるで先を見透かしているようで落ち着きのある梓さんが、珍しく考え込んでくれている。


 ボクに化粧を施している時の梓さんは幽体で見て肉体で書いてくれているので、ボクには二重にボヤけて視える。ずっと見てるとボクの目が霞んで見えているような錯覚に陥るから、あまり見ない様にしているんだけど、真剣なこちらからの相談でもあるので人の目をみて喋るのが礼儀だ。


「モノ自体はそんなに危険とういう訳では御座いません。ただ気がかりなのがやはり人であったにも関わらず意思が低く、そして永い時間ときを経てあのような瘴気しょうきを纏う程になったという経緯が気になります。私も今の仕事が片付いたら少し探ってみようとは思っていたのです」


「あ、そうだったんですか!」


「あのまま・・・そうですね。後十年ほど、あのまま何にも動物や植物ですら干渉を受けずにあそこに放置されていますと、ちょっとした悪霊や悪しき精霊へとなり得てしまうやもしれません。これも何かの『縁』。浄霊させておいてもよいかと考えておりました」


「じゃあ、またボクたちにやらせて下さいよ。桃ちゃんもあそこの土地の住民って『縁』もあり、気になっていたそうなんです。問題はその浄霊方法が分からなかったんですが、梓さんがそこを協力してもらえるのなら不安は無くなります!」


「・・・そこも気がかりなんです。要はまた、桃華さんが現地に行かれて遺骨を回収するということは、あの瘴気に桃華さんが触れるということ。そこが懸念なのです。他の者であれば問題ないでしょう。桃華さんだと何を感じ取ってしまうか、もしくは・・・・・・」


「???」


「・・・はい、出来ましたよ。本日からはこの室内からでも大丈夫だと思われます。まだ一応はを施しましたが、これは念のためです。意識を室外へ、この屋敷の外から『第三の目』を開き、千里眼を開始してみて下さい」



 ボクは集中して眼を開いた。また彼誰時かわたれときの歪で広大な森の中の風景が映ると思いきや、そこは町の中だった。


「・・・あれ?」


「・・・千鶴さん、その手首の髪留め」


「・・・ああ、これ、今日のお昼に桃ちゃんと温泉に入ってた時に借りたヘアゴム・・・借りっぱなしで手首に付けたままだった・・・・・・」


「桃華さんの持ち物で影響を受けてしまったのですね。『協調』の延長で相性も良い証拠でしょう」


「じゃあ、ここは桃ちゃんの家ってことですかね」


「その可能性が高いようですね」


 すると桃ちゃんが出て来て、バイクに跨りどこかへと向かった。


「・・・なんだか嫌な予感がします。失礼ながら千鶴さん、桃華さんを追って頂けませんか?」


「え?あ、はい」


 ボクは桃ちゃんのバイクのスピードに置いて行かれながらなんとか上空から追って行った。河川敷を上流へと走るその前方には、例の瘴気が立ち上っている山がそびえ立つように待ち構えていた。


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