無縁

「・・・なぁ、ちーちゃん。うちんとこの県境にある山の麓。あっこの『幽霊屋敷』のこと、なんで知ってたん?」


 ボクらは以来、たまに一緒に秘湯に入るようになった。ボク個人的にはこの温泉の独特な匂いのおかげで、桃ちゃんの溢れ出る『臭気』が掻き消されてちょっと変な気にならないから逆に良いんだけど・・・桃ちゃんはどう思っているんだろうかが気になる汗。


「幽霊屋敷?」


「チャコの場所、教えてもらう時に一緒に見えたんよ。なんか、古いボロボロん家で、変な気配がするとこ。チャコが落とされたあの川のずっと上流のとこのな」


「ああ、えっと・・・前に相談に乗ってもらった話のきっかけになったのが、そこの建物の離れ小屋に埋まっている遺骨だったの・・・きっと、ボクの中でまだ気になってたんだと思う。たまたま、近くだったので見つけちゃったのもあって・・・・・・」


「ああ、そうやったん。あの時はチャコで必死やったから気にせんかったんやけどな。あっこはね、地元じゃ有名な心霊スポットやったんよ。ちーちゃんの見え方のビジョンやったから、なんか普通に見るよりも大分と気持ち悪かったで」


 ・・・チャコが温泉の湯内で犬掻きをして泳いでいる汗。霊で犬なのに、温泉の気持ちよさがわかるのだろうか汗。どうしよう真面目な感じで話している桃ちゃんを尻目にチャコの行動が気になってしまう。


「あ、え、えっと汗、実際は普通の、そんなに怖くない家なの??」


「うん。あ、うちは行ったことないで?こんなんやしさ。大分と誰も住んでない廃墟となってしまって、アホな不良どもが度胸試しで行くような所なんやけどな。うちのおばぁに小さい頃に聞いたことがあったような・・・ちょっと思い出したことがあんねん」


「あの古民家のことで?」


「多分そう。そんなピンポイントで家のことやったんか、山全体のことやったんかもしれんけどな・・・あっこにぁ『鬼婆』が住んでるから行かん方がええ、遊びでもな。見つかったら食べられるでの・・・ってね」


「鬼婆ぁ・・・あの、昔話に出てくるやつ?」


「まぁ、そんな感じで言ってたわ」


 双子の後に幽閉された老婆のことが連想された。けど、ボクが視るその双子も老婆も感じはそんな怖いような、鬼のような形相はしていなかった。


「他の話が混ざってるかもしれんけど、昔、この村に言葉が通じんような人物が瀕死で流れ着いて、一旦は保護し受け入れて暮らしてたらしい。けど、盗みや暴力、そして堕落とあまりに素行が悪くてみんなに追い出されたんやて。あの山に逃げるように去っていったけど、それから鬼婆の話ができてきたからその時の異国者がなんとか生き延びて暮らしてたんちゃうか、とか」


「・・・そうなんですね」


「いや昔の聞いた話やし、年寄りが言っていることやったら尚更、色々と大袈裟なんかもしれんけどな。まぁ、何してたんかは知らんけど、ちょっと可哀そうかなって感じで何となく覚えててん。”いちびった”中学ん時の奴らがよう毎年、夏になったら話してたわ。どうせ根性もないからウソついて『行ったったで俺ぇ』てことにしとったけどな。実際は家の前まで行ってただけで帰ってきとん。マジ情けないしシラけるやろ?」


 チャコが岩の上で寝ている・・・犬って暑さに弱いんじゃなかったっけ?


「なぁ、チャコの時みたいに、うち、行こか?ちーちゃんもずっと気にしてたから思念として強く残ってたんやろ?うちも、なんか気になってしゃー無くなってきたんよ」


「・・・え?でもさ、チャコの時と違って遺骨を還す先が無い、ってか分からないよ?」


「一応、おかんか誰かにも聞いてみるけど最悪、だれも知らんかったとしてもそんな廃れた家の、心霊スポットみたいに騒がしい場所で眠るよりかは、もうちょっと静かなとこに埋めたった方がいいんちゃう?ってか、普通は警察に届けるんやろうけどな。でも、届けたって身元不明とか引き取り遺族が居ない場合、公営墓地の納骨堂に合葬されるだけ。それってどうなん?」


「んー・・・梓さんに相談してみる?」


「・・・そやなぁ・・・・・・」


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