捜索と探索

 あれからボクたちは試行錯誤しながらだけど、なんとか答えは見つかった。


 桃ちゃんとシャルの二人は、犯人の追跡に注力するために二人で新しい協調の形を確立したの。

 桃ちゃんの『霊触』が感じ取る思念は人間やその周辺の物の場合、強すぎる想いがその一点に集中してしまうのが難点だった。しかし自然の物質であれば全ての思念が客観的であり、云わば人間や動物にある『』というごうが無いので比較的こちらの意図が反映されることが分かった。


 人工物。例えばコンクリートやプラスチックなどの場合は製造過程の制作者の思念が少し強く残ってしまいあまり上手くいかない。


 自然物。自然に砕かれた石や岩。ベストなのが折れたばかりの木の枝や花々なんかは特に桃ちゃんの体質とも相性が良く、鉱物よりも霊的干渉が有り桃ちゃんが感じ取りたいモノを伝えてくれるらしい。


 周辺の地図を開き、桃ちゃんがあちこちの道中にあった石や花、木の枝や葉を採取してきてシャルとコアポレイト《協調》。チャコの匂いを元にその場所を特定していった。地道な消去法ではあったが、やはりチャコを殺した犯人は飼い主の自宅周辺に住んでいるのがハッキリとした。そして後は桃ちゃんの足で捜索。ボクが見た車のナンバーを駐車してある家を探すだけだった。



 そしてそれは直ぐに見つかった。



 犯人はチャコが飼っていた家のに住んでいる住人で、一人暮らしの女性。ボクが見た車のナンバーも、桃ちゃんがチャコの首輪と白のワゴン車と両方を触り霊触したら完全にチャコの思念を感じ取ったから間違いない。


 桃ちゃんは、いても経っても居られなくなり考えるよりも先に身体が動き、犯人の家のドアノブに手をかけた。

 その瞬間、悲観に暮れる犯人の悲しみの感情とその父親の死相が浮かんだそうだ。その強烈な思念に圧倒され、桃ちゃんの怒りが薄らいだ。そして、足元に転がって落ちている一粒の小さな玉に意識を向けられた。それを拾おうと触った瞬間、死相の父親が瀕死で救急車にレッカーされていく瞬間と、その手を必死に泣きながら掴んでいる中年女性。そして紐が切れてばらけた数珠。その小さな玉とは数珠玉の一粒だった。



 桃ちゃんはその数珠玉を使って、梓さんにその父親の『死に口』をお願いして詳細をボクも一緒に聞いた。



 チャコを川に投げ捨てて殺した中年女性は、一人息子が成人すると同時に旦那さんとは離婚した。実父が寝た切りの状態だったためにその看病も必要なのもあり、実家へと帰省してきた。そこが裏手の家だ。その父親も日々疲弊すると同時にアルツハイマーも患い、女性は介護うつへ。息子との関係も良くはなく離婚後は会うことも無いままに、誰にも相談や助けを求めることすら出来ないでいた。


 寝たきりの父親は毎朝、吠える犬の声を聞いては昔に飼っていた自分の愛犬と勘違いをする。女性が少しでも寝坊をしていると、父親は自分の愛犬を探しに老体に鞭を打ってでも、近所をうろちょろと歩き回っては途中で行き倒れ女性に苦労をかけていく。



 そんなうち、女性の苦労に比例して老人を呼んでいる犬を恨む様になっていった。



 そんなある日、また女性は朝早くに起きることが出来ずにいると、一本の電話で起こされた。父親が事故を起こし、病院からの電話だった。事故といっても交通事故などではなく、転倒して腰骨を骨折してしまったようだった。



 一か月の入院後、退院してからはまた自宅療養が開始されるが、また犬の声で外出しようとしてしまう。そしてまた、女性が寝静まっているうちに縁側で足を踏み外し、頭を打って死亡してしまった・・・・・・



 その後、女性は犬への恨みが復讐への動機となり、あんなことを・・・・・・



 桃ちゃんはやるせない気持ちで、もう、どうすればいいかも分からない心境になっていた。


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