『座敷牢』前編

瘴気

あずささん・・・あれは?」


 ボクと梓さんはの開眼訓練を今日もしていた。その最中に少しだけ歪んだ空間が視えた気がしたんだ。


「・・・少し早いかもですが・・・わたくしが支えますので、もう少し視て下さいまし」


「・・・はい」

 少し緊張する感じで、若干の不安はあれど不信は無かった。梓さんが着いてくれているので安心はしている。不安なのはまだまだ未熟な自分自身のことでの不安だ。


 自分の立ち位置というか、視線の位置をもっと近づけてみる。古い、古民家のような田舎の建物。屋敷とまでは大きくなく、ただの家というには大きいまさに古民家だ。

 そこから、なんだか蜃気楼のように空間が滲み、歪んでいる。


 外部からは見えない位置、物置小屋のような外れにある小さな小屋から歪み立ち上っているようだ。

 この建物自体がもうボロボロでもう誰も住んでいないみたい。生活感と人の気配が全く無くて窓ガラスの殆どは割れ木板も所どころ歯抜け、戸も半分が外れ無くなっている。

 歪みが濃い小屋の内部を恐るおそる見てみるも、特に表面上は何も無い。が、地面からは黒い湯気オーラが溢れ立ち上っていて、シャルがこの場にいれば咽返むせかえっているんじゃないかという程の瘴気しょうきだった。


「・・・どうやらこの下からのようですね」


「みたいですね。そう言えばこういった土の中や水中とか、密着?密閉された内部とかも視えるものですかね」


「どうでしょう。それも、ではないですか?」


 ・・・そうだね。別に直に見ている訳じゃないんだし。


「・・・変にアドバイスをして、私の先入観を植え付けては無粋なのですが・・・一つだけ。難しいですがちょっとした『線引き』があります。何事にも現世や肉眼で見えるモノの基準でをもって見ると。それは表面的な事象でしか捉えれませぬ。ですが、己の見解が全て正しいといったをしてもそれはするだけであり、また真実や実質を見落とします。その線引き、心や思考を調整し続け揺蕩たゆたうことこそが人類が与えられ、許された能力でもあります。忘れることの無く」


 まぁ、バランス、ってことだよね。


「何度も申し上げ恐縮では御座いますが、霊体も幽体も自身の世界と意思の支配が大半の認識となります。私たちのこの能力も同じく、どう観て、何を聴き、どのような感じ方をして、何に触れるか。。そこも訓練の一つです。落ち着いて、大丈夫です。千鶴ちづるさんは誰よりも俯瞰ふかんな存在です」


「はい。がんばります!!」


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