クレア・ガイダンス

 何度かの霊視訓練をこなしていき、大分とボクも慣れてきた。いつものように準備をして、今回は自然への意識を都会へと変えてみようと思った。この『屋敷』にボクが救われる直前の鬱蒼な森のように、自然の中で死んでいった人間の霊を視ることもあったが、意識の訓練でもうボクは怖いイメージという先入観は払拭できたと思う。苦しみ藻掻き、ひっ迫した表情は今では悲しみ嘆く顔に見えている。あの時の霊たちも、梓さんが言うようにボクに恨みを持ったりと悪意ではなく、ただ何かにすがりたかっただけなんだなと理解できるようになった。


 そんな、ある日。


 ボクらはいつものように訓練をしていた。


 都会の海岸や学校、何気ないマンションやビルの一画、電車やバスなど、ボクにとっては懐かしむ風景を堪能して多くの人や霊を視ている内に、生者の死者の区別が出来るようになってきた。人に寄り濃淡と微妙な色合いはあれど、基本的に生者は赤や黄などの、死者はの、のようなものが薄っすらと立ち上っていることに気が付いた。


 ボクは素直に喜んだ。シンプルにレベルアップの音が頭の中に響いたよ。これで視えた時に人なのか霊なのかどっちか悩まず、困らずに済むんだからね!


 そうして、テンション上がりながら制限時間の五分が経過しようとしたその時、目端に今まで見たことが無い配色の湯気オーラを纏う者を見た。


 そいつはこの霊視訓練をした初日に見た『あの』だった。

 少しだけ後を追ってみたんだけど、今ではもう後悔している。


 女の子をナンパしたと思いきや、路地裏の誰も居ない所で・・・・・・


 ボクは、思わず現世の目を開けた。梓さんも少し遅れて手を離す。


「大丈夫ですか?」


 梓さんが最初の時のように、声を掛けてくれて安心させようとしてくれる。


《・・・あれは・・・何なんですか?》


 今回は梓さんも平静な状態だったのもあり、思い切って聞いてみた。


「・・・あれは・・・は、邪悪なモノです」


 ”あいつ”・・・珍しく梓さんが荒い口調で歯を食いしばるような、手を握りしめるような覇気を感じた。


《高位の悪霊・・・みたいなモノですかね》


「いえ・・・彼は人間です。しかし、私たちのような稀有な能力を持って生まれました」


《え?!人間!?普通の人のような魂の色では無かったですよ?》


「・・・千鶴さんの眼には、どのように視えましたか?」


《なんか禍々しい感じ・・・あ、訓練を続けているうちに魂の色のようなモノが見えるようになったんですけど、そう・・・暗いのような・・・・・・》


「やはり・・・そうですね。そうですか・・・アレにはもう、近づかないで下さい。彼は人ですが、


《誰なんですか?梓さんは知っている人?》


「・・・はい、少々。彼の今の名は烏枢沙摩・・・いえ、烏枢 夢窓うすさ むそう


《むそう・・・さっき・・・あいつ、人を食べていた?!》


「具体的には『魂を食っている』です。彼は他の魂を吸収し続けていないと破滅する『』、とでも言いましょうか」


 ボクは全身に寒気が走り鳥肌が立った。ずっと霊や魂に触れてきたボクらだからこそ分かるその恐ろしさ・・・輪廻転生があるかどうかまではボクらにも分からないけど、完全にその存在や自我、『縁』までもが吸収され消滅し途絶えるということは・・・・・・


「千鶴さん、私の霊魂は視えますか?幽体ではなく、の方です。まだ少し化粧の力が残っているならば、見えるはずです」


《あ・・・はい、やってみます》


 ボクは目をまた瞑り額に書かれた『第三の眼』に集中して、そして肉眼でも集中し、それを交互に繰り返した。するとぼんやりと梓さんの輪郭が光り出した。


《ん、んん・・・光・・・黄色?っぽい・・・感じ》


「なるほど・・・さっき彼のその色は『灰色』と申しましたでしょう。多くの魂を吸い続け、そのような色になったのね。人以外の魂までも・・・様々な絵具を水で溶かしていった最後は、必ず灰色のような色になるでしょう?それと同じ現象だと思います」


《・・・あの人は、ここには来ないのですか?》


「・・・昔は、まだ幼い頃は居たのですが・・・出て行かれました」


《なぜ?では、敵ではない、んですよね??》


「・・・何故かは分かりません。ただ、、とだけは言っておきます。彼を次に見かけても、追ってはいけませんよ」


 そう言って梓さんはそそくさと去っていきました。まだまだ聞きたいことがあったのに・・・・・・


 その後ろ姿を追うように見ていたのだけど、梓さんの湯気オーラしたかのように見えた。


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