千里眼

「では、まずはこの蝋燭の火を見つめて下さい」


《はい・・・・・・》


「蝋燭の炎以外、背景や私の姿までが消え、蝋燭本体まで消えたらば、目を瞑り、頭の中で瞼の裏にまで同じ火が視えるようにイメージを続けて下さい」


《・・・・・・》


 蝋燭の火だけがゆらゆらと揺れている。それ以外が暗く、常に彼誰時かわたれどきに在るこの迷い家まよひがなのに、段々とまるで漆黒の闇夜のように周囲が見えなくなってくる。


 次第に自分の身体すらここに無いのではないかと思えるほどに集中し、火のエネルギー、熱と光がこの世界の全てとなった瞬間にボクは目を瞑った。

 ずっと、目の前には炎だけが揺らめいている。徐々にボク自身が炎の一部になって行くような感覚もある。


「・・・では、いきます。これからわたくしも集中致しますので、ここから千鶴さんとの『』が出来ないことと成ります故、何かあれば手でお互いに触れ合って何か合図をして下さい。何卒・・・・・・」


 梓さんの手が僕の背中に置かれ、声がゆっくりと聞こえなくなった。その途端に視界が広がり、山から海へ、都会のビル群から何もない荒野まで。路地裏のネズミから、木々に住まうリスの親子にまで、視界が広がった。場面は安定せず、まるで高速で滑空とワープを繰り返しているように視えている。世界が変わるがわる、動画の投影写真のように切り替えられてゆく。


 すると、最後に見えたのは真っ暗な世界。


 大男が佇んでいる・・・・・・


 短髪で・・・かなりガタイがいい・・・後ろ姿・・・外国の軍服を着ている?・・・次は神父・・・黒服、喪服?・・・着物・・・陰陽・・・・・・


 ボクは前方に回り込もうとしている。別に見たいわけでは無かった。左から回り込み、横顔が見えた。手元には・・・・・・


 両手で猫を掴み・・・食っていた!


 驚いたボクは心が乱れ、梓さんの置かれた手を掴んだ。

「・・・大丈夫ですよ。大丈夫」

 優しく声をかけてくれる梓さんに、あれは何だったのかと聞こうとして目を開けた。振り返ると、梓さんは泣いていた。


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