芳一

梓さんに言われて、ボクは古杣ふるそまさんとシルバちゃんのように、ペアで『霊視』の訓練と実験をすることになった。


 ボクの顔に、何やら梓さんがペイントをし出す。


 オレンジ色をしたその塗料は「赤土」を水で練ったものを使ってるらしく、実際にどこか奥地の部族がよく儀式に使われるものだそうだ。額には、あの都市伝説で有名な「秘密結社イルミナティ」のような五芒星の中に目を描き、頬は歌舞伎の隈取くまどりのようなデザインで、ボクはなんとなくカッコ良い出で立ちとなった。


 大手テーマパークでボディペイントをして楽しんだ思い出が蘇り、なんだかニヤニヤしながらされるがままになっているボクは、きっと気持ち悪いだろうなと俯瞰して思って反省し、背筋を伸ばして真面目に気を引き締めて次は首筋に「」を書かれていく。


 ・・・でも・・・・・・

 細かい部分は筆で書くので、くすぐったくて・・・何度も笑っちゃってめちゃくちゃ梓さんの邪魔をしちゃった汗。ごめんなさい泣。

 梓さんも微笑みながら対応してくれてたからよかったものの、なんか二人でイチャイチャしちゃった感があってボクは勝手にほっこりしちゃっていました。



《あ、この文字、梓さんのと似てる》


 文字列というか、少し書かれているものは違うけど字体や種類は梓さんが首筋に彫っている墨と同じに見えた。


「・・・ええ、そうです。この『』は『』。他から視えられたりされない為の呪、故にこれが書かれて効力が在る間は古杣さんの『霊聴』でも千鶴ちづるさんの心の声は聞こえなくなりますよ」


《へぇー!すごい、そんなことのできるんだ》


「でも効力はまぁ十分程度、ですかね。一応、念のために五分ぐらいで終わらせますよ」


 五分・・・逆に五分で何ができるのか、この時は全然分からなかった。


「では、あちらに小窓があります。そこまで行きましょう」


 ボクは座っていた椅子を持って、梓さんが向かう窓まで着いていった。


「恐らくは、まだ私たちの力はこの屋敷の結界を越えれませぬ。故、ごめんなさい、少し窓から顔を出して貰えませんか?」


 ボクは少し戸惑いながら、言われた通りにした。


「大丈夫ですよ。その為に『』を書いたのです」


《しゃきょう?》


「『』の物語を聞いたことはありませぬか?」


《あ、知ってます。あの、耳を妖怪に持っていかれたやつですよね!》


「え・・・ええ、うふふ、そうですね。芳一の身体に『』を写経し、物の怪から見えない様にされど、耳だけ書き損じた、というやつです。その、字体や文字こそは違えど、お経のようなものと同じのを千鶴さんに書かせて頂きました。顔のそのは、あなたの能力を少し強化させる効果があるものです」


《なるほど!じゃあ、向こうからは見えないんですね》


「ええ。ただ、例えば古杣さんがあなたの声を聴く時のように、千鶴さんが誰かや何かに一点集中してしまわれると他への影響が生じますので、念のために出来るだけ生物や霊体は目端で視るように願います」


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