第十一話 厄災

「売り飛ばされていった先々でいくつかのにも罹り、シルバはある国の山奥にゴミの様に捨てられていた。脳神経にもその病気が感染していて、普通の医療では手の施しようが無かった。そんなシルバにこの迷い家が導かれ、僕たちが助けようとしたその時、シルバの心の声を聴いた古杣さんは自虐的な言葉の数々を聞いてしまった。多くの人達に自身の感情や思想を感染させてきた自分への戒めとして、今の自分には相応しい死に様だと現実世界の絶望と恐怖、そして生きる気力も無くなっていた。そうしてその人格は、その時に”本当に死んでしまった”。別人格があったからこそ、その時もまたにも、シルバは奇しくも助かり今も苦しみ抜いている。これが良いことだったのか悪いことだったのかは、これからの人生でどう生きるかにかかっている」


 ボクは今すぐにでもシルバちゃんを抱きしめに行きたかったが、記憶を消したという理由も聞いていたのでどうしようもない自分に歯がゆさを感じていた。


「なんとか肉体的にも一命を取り留めるのに、色んな方法を使った。その詳細はまだ言えないが、一つだけ・・・云わば『』を使うしかなかった。が、それが原因でシルバもまた、僕と同じくまだこの迷い家から外へは出られないでいるんだ。その存在を明示できないが、『疫病、厄災の神』の力を利用するしかなく、その影響もまた計り知れない・・・まるでその『』のように・・・・・・」


 シャルも、少し涙ぐんでいる。

 どういった出来事があったのかは分からないけど、ただ、確かによくよくシルバちゃんを霊視見てみると、なぜか身体の輪郭や背景が少し歪んで、暗く視えた。


「そんなシルバだけど、歌っている時は違うんだ。千鶴ちゃんも、聞いてみてどう思った?」


 ボクはずっとシルバちゃんのことを想いながら泣きつつ、両手で精いっぱいのグッドサイン、サムズアップをシャルに示した。


「さっきも言ったように、彼女の唄を聞いてこんなにも僕たちの何らかの気持ちが揺らぐってことは、間違いなく歌っている時のシルバには感情を込めて謳えているんだよ。だから、必ずいつの日か、歌い続けることによって彼女の感情と人格たちは纏まっていく。必ず。みんなそう信じているんだ」



 ボクはそんな話を聞いて以降、常に一緒に、欠かさずに、シルバちゃんと詠うようにした。


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