第二話 シルバ

 古杣さんと白髪の女性はずっと歌い奏でている。まだ目を瞑りながら真剣に演奏しているので、ボクが入ってきたことも梓さんが現れていることにも気が付いていない様子だ。

 中に入ってみると仏壇のすぐ手前の供物台くもつだいに香炉があり、そこから数本のお香の臭いが充満していて、奏者の二人の風貌、お寺のような空間、趣き溢れている音、そして匂い、その全てがまるで映画のワンシーンかのように思わせる『和気』が漂っている。


《私は、いつも二人がああやって詠い奏でている所を見に、聞きに来るのです》


《素敵です・・・あの女性は、どなたですか?》


 つい、梓さんの丁寧語が移ってしまう。


《あの方は、シルバさんです。千鶴さんと年も近いので気が合うかもしれませんね》


 白髪だったからか、着物姿だからか、ボクよりずっと年上に見えた。


《あ、そんなんですね。古杣さんと同じぐらいかと思いました》


《確か・・・まだ成人はされていなかったはずですよ。十八か、十九か》


《シャルと同じように、外国人さんですか?》

 日本の着物は着ているけど、白髪で『シルバ』という名前からボクはそう思った。


《いえ、生粋な日本人ですよ。名前はシャルルさんが下さいました》


《・・・付けた?》


《シルバさんは、孤児でして。私たちのようにまた、を持って生まれました・・・・・・》


 梓さんと少し会話しながらも、シルバさんと古杣さんの真に迫る圧倒した演奏にボクはいつの間にか、なぜか一筋の涙が零れていました。





 二人の演奏が一時中断し休憩に入った。その瞬間、梓さんが古杣さんの方へと行くのでボクはその後を付いていった。


《お疲れ様です。古杣さん、シルバさん》


 近くで見るシルバさんは、遠目では着物の白髪なのが高齢者のイメージとして先入観が拭えず、どうしても十代には見えなかったが肌は透き通るように白く美しくきめ細かで、瞳は淡紅色をしていた。若さを感じたが、先ほど梓さんがと言っていたのはまだ信じられなかった。


《シルバさん、こちらは千鶴さんと申します。これからご一緒にここにお住まいになられますので、シルバさんとは年も近くきっといいお友達になると思います。どうぞよしなにしてあげて》


 ボクはまた照れくさくなり、きっと頬を赤めながら会釈した、と思う。


「はい、よろしくお願いします」


 先ほどの迫力のある詠語りとは裏腹に、か細く優しい声で囁くように挨拶をしてくれた。ボクは古杣さんの目を見ながら

《こちらこそお願いします!歌っ!凄いです!感動して泣いちゃいました!古杣さんの楽器の演奏も!》

 と、目力を込めて心で叫びました。古杣さんのスーツじゃなく着物姿にドキドキしている深層心理を気づかれない様にと、死ぬ気で心の奥に想いを隠しながら。


《では、私はこれにて・・・・・・》


 梓さんの幽体が消えていった。本当にただ語りと演奏を聞きに来ただけのように。


「シルバ、千鶴ちゃんは声が出せないんだ。だから手を・・・・・・」


 古杣さんがそう言うと、二人は両手を繋いでまた目を瞑りだす。


「千鶴ちゃん、俺の時と同じ・・・いや、さっきの会長の幽体と話す時のように頭の中で喋ってもいいよ。多分、これで二人はダイレクトに会話が出来ると思う」


《マジで?なんで??》


「私は、言霊。マントラって言い方もあるんですけど、声が特殊みたいなんです。古杣さんとは『音』、が普通とは違う共通点がありまして、聞こえない音と伝わらない音を合わせることが出来るんです」


《えー!凄い!なんかフュージョンみたいでカッコいい。いいなぁ》


「フフフ・・・千鶴さんって、かわいいですね」


《ええ?!そ、そんな汗。シルバさんこそ、めちゃくちゃかわいい・・・ってか、キレイ!》


「ありがとう」


《シャルルみたいに、ハーフとかですか?》


「ああ・・・いえ、違います。これは、一般的には『アルビノ』と言って、身体のメラニン色素の病気なの。正式な名称、医学用語では先天性白皮症って言う」


《あ・・・そうなんだ。ごめんなさい・・・・・・》


「いえ、いいんです。気にしないで」


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