『クレア・コンヴァイ』

第一話 壇ノ浦

 激しい『琵琶』の演奏と共に・・・・・・



・・・二位殿~は~、帝を抱き~、奉~り~~ 君は~万乗の主と、生まれさせ給え~ども~ 


御運~、既に尽させ給いぬ~ 西方浄土の来迎に、与らんと~思召し~ いやはや、御念仏唱え給え~ 浪の下にも~都の候~ぞと~~ 幼~き帝もろともに~ 千尋の~海へぞ~~ 入り~~、給う・・・・・・



 桑の木で出来た本体の撥面に、けやきで作られたばちが当たる拍子がけたたましく鳴り響き、五弦の薩摩琵琶を掻き鳴らす古杣ふるそまさんと、その隣に正座で姿勢よく座る髪の長い白髪の女性が詠り語る。

 言葉の歌詞は殆どの言い回しが古く、ボクにはさっぱり聞き取れずに意味なども分からなかったが、琵琶の音とその歌声はなんだか魂にまで届き、響き揺るがすかのような迫力で廊下を歩くボクの足を止めてつい聞き入ってしまった。


 ふすまをそっ、と数センチだけ開けて中を覗くと、大きな部屋に蝋燭が四方八方と灯り、中央奥にはまた大きな仏壇と仏像。その前に二人は鎮座していて、目を瞑り音と声に全集中しながら奏で唄っている。

 ボクは、なんだか邪魔をしてはいけないと思い、またそっ、と襖を締めてなんだか複雑な気持ちになった。

 すると

《もっとお聞きになられても大丈夫ですよ?》


 ボクはびっくりして後ろを振り向くと、あずささんの幽体が立って話しかけてきた。《おはようございます》と言おうとして、声が出せないでいると

《おはようございます千鶴ちづるさん、ごゆるりとお眠りになられましたか?》


 ボクの目が点になって頷くことしか出来なかった。梓さんは笑顔で

《幽体の私であれば、目聞き、語ることは十分可能なのですよ。足はもう大丈夫でしょうか?》


《・・・あ、そうなんですね!はい!ありがとうございます、お薬が凄く良くて、もう痛みは完全に無く、ほら、この通り》

 そう言いながら足の裏を見せた。


《まだ無茶はしてはダメですよ。・・・さぁ、中へどうぞ》


 梓さんは襖を開けず、そのまますっと消えて入って行った。ボクは追いかけるように、でも静かに襖を開けて申し訳なさそうに入って行った。


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