第五話 シャーマン
「初めて食べたみかんやリンゴ。ショコラやプリン、モンブラン。刺身、ワサビ、醤油の風味。バジルやアンチョビ、トマトやチーズ。初めてまともな風味で食べるものは全てが
食べ物かい!と突っ込みそうになったが、そこは我慢した。SNSで見たんだけど色覚障害がある子供が特殊なメガネを掛けられて、みんなと同じ世界を垣間見た瞬間、感動で涙している動画を見てボクはもらい泣きをしたことがあるのを思い出した。きっとそれと同じような感動だったんだろうと瞬時に自分を戒めた。
<だからここで料理とかしてるんだね。美味しかったよ本当に!またあのオムライス食べたい!毎朝でもいいよ♪>
「ははっ、ありがとう!」
今のシャルルの明るさや屈託のない笑顔、鋭気からは想像ができない程の過去の話だなと、まるで別の人の話を今シャルルから聞いているような感じがする。
「欧米の文化や習慣がどうって話ではないし、どっちがどうなんて僕にも分からない。エクソシストの世界でも『解放の祈り』という浄霊に近い儀式を行うこともある。どうしても『天使』『悪魔』や『神』という構図での『敵対』、『光と影』、云わば”二元論”という思考は、はっきりとした立場や明確な態度を示すことが必要になってしまい、見極めを誤ると『悪い存在でないモノが悪くなる』ことが起きてしまうんだって」
ちょっと、またボクには分からない世界な話のような気がしてきた・・・・・・
「例えば、実際に悪魔祓いの現場では『憑依した”人物自身”が司祭や神父の言葉により自分は悪魔だと思い込む』ことがあるらしい・・・一種の洗脳や、あ、日本の言葉で言うと『空気を読む』っていうんだっけ?それが拗れて本当の悪魔へと変貌してしまう」
あ、少しだけなんとなく分かるかな。
「ここからは僕の考えなんだけど、そういった洗脳や勘違いってのは何も人間だけではないんじゃないかな」
冷や汗がじんわりと全身を濡らした気がした。
「千鶴ちゃんは聞いたことがあるかどうか分からないけど、まぁ映画でもよく聞くことがあると思う。
なんとなく分かるような気がするけど、そうなのかと頷くことしかできなかった。
「まぁ、あくまでも”もしかしたら”って範囲だけど、悪魔っていう大袈裟な存在じゃなかったとしてさ、ただの・・・っていう言い方が適切かどうかすら分からないけど『ただの悪い霊』だったとか、ただの霊や寂しかっただけの霊とかが『全否定』されたり『お前は悪魔だぁ!』と言われ続けられたとしたら、しかもそれなりの『力』をもった人にね、言われたら『あぁ、俺ってそうなのかなぁ』ってならない?っつー話だね」
あながち、そんなことは無い・・・とは言い切れないかもしれない。冤罪で捕まった人たちがつい、やっても無い犯罪行為を長時間も「やっただろ」「お前が犯人だ」と言われ続けられたとしたら、そうなのかなぁ・・・と思ってしまうような話が実際にあるのと同じことが、意識ある精神体であるならばボクらとそう変わりがない・・・のかもしれない。
「まぁ、真意の方はわからないけどね。少なくとも、そしてあくまでも僕の場合はそうだったってことさ。僕はこの屋敷を出たとたんに、何体もの祖先が処刑し、そして半端な除霊師が怒らせて『悪魔』と化した霊に憑りつかれ速攻で僕自身に『自殺』を図りにかかってくるんだ・・・・・・」
そう言って首筋と手首のキズをボクに見せてくれた。いたたましくも痛々しいものだった。
「まぁ、そんなこんなで僕は8才のときに最終的には拘束具に包まれ血の臭いに溺れながらここへやってきた・・・って話さ」
目の奥には悲しみの海がマリアナ海溝のように深く、
シャルルの壮絶な過去の話を聞き終わる頃には、ボクはもう完全に自意識を取り戻せていた。これも後で聞いた話なんだけど、シャルルの『霊臭』は生者の悪い所も嗅ぎ分けることができるらしい。
長年、飼っていた犬が主人の病気、
ボクは自分だけがなぜこんな目にあうのだろうか。自分だけが世界中の不幸を背負って生まれてきた『忌み嫌われた子』だったんだと、ずっとそう思ってきた。しかし、シャルルの話を聞き、ボクだけでなくここにいるみんなが同じ境遇の仲間なんだということを強く想い、仲間意識だけではなく『同志』のような感覚にまで感じていた。全然違う経緯だけど、同じ痛みを共有する『兄弟』のような気もして、精神、いや、『魂』って言った方がいいんだろうな。魂の治療、浄化まで受けたんだと思う。
古杣さんはそういったことを解ったうえで、ボクとシャルルをこうやって示し合わせたんじゃないかと、今ではそう思っている。
最後に、シャルはこう言った。
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