第四話 除霊と浄霊

「もし、僕たちがこのお屋敷の外で出会っていたとしたら、僕の周りには何百、何千かもしれない霊体や怨霊が千鶴ちゃんには視えたかもしれないね」


 少し考えただけで悍ましい光景が目に浮かんだ。きっと生首を抱えた霊が無数にこっちを見てくるのだろう。

 ・・・でもどうなんだろう。ずっと不思議だったのがボクは外国人の霊は見たことがない。きっと、その『縁』が紡ぐことが少ないからだとは思うのだけど、シャルルに憑いているその亡霊のような死者たちは、こうやってシャルルとボクが繋がった今現在ではシャルルを通して見えるようになるのだろうか。そんな少し不謹慎な好奇心と共にゾワゾワっと悪寒が全身に走る。


「僕が住んでいた地域で一番有名な悪魔祓いエクソシストの所へと連れられた僕は、様々な花を散りばめられた祭壇に寝かされて一通りの儀式みたいなのを施されていった。僕や除霊師とその助手など丸一日ぐらいその場にいた人全員、眠ることもなくずっと聖書の言葉や祈りを唱え、聞かされていたけど全くの効果はなかった。逆に、祭壇だけでなく部屋中を生け花や観葉植物に両親が用意してくれて囲まれていたのだけど、どんどんと悪臭、死臭、血と鉄の感覚が勝ってきて最終的に僕は気を失ってしまった。あ、眠ったんじゃないからね。そして次に気が付いた時には自宅のベッドだった。両親がうな垂れていたので、それを見て僕は失敗したんだなと感じた。後で聞いたんだけど、やっぱり祓う霊=悪魔が多すぎるんだって。なんだったら何体かの悪魔を余計にらしく、そこから僕は血の感覚と鉄の臭いはいくら花々と草木で誤魔化しても消えることは寝ている間すらも無くなった。何度も何度も血で溺れるかように息苦しくなり、完全に意識は朦朧と神経疲労で死にかけていた」


<ボクも、除霊をしようとして酷くなったことがあります>


 顔の横に伝言を書き開いたノートを持ってきて、驚いた表情を突き出しながらシャルルの目を見つめた。


「梓会長さんに聞いた話だけど、一般的な悪魔祓いや除霊ってのはその名の通り、払ったり退かせたり、その場所や人から除くことを指んだって。だから本当に力があったり真に神の加護を受けている人物やそれなりの高位な精霊の力でない限り、非常に危険な行為でもあるらしい。それは術者にとっても危険であり逆に怒らせてしまうことが多々あるみたい」


 ボクは父と母のことを少し思い出した。


「だからここのみんなはできるだけ『』に力を入れている。払っても除いても、またやってきたり何倍にも脹れて還ってくることもある。だから浄化し根本から霊を納得させていくことを基礎とした活動をするってのが会長の意向なんだ。あ、でも本当に危険で今すぐに対処しないと危ない!って時とかはまず『』するってのは仕方がないらしいってこともこっちで聞いて教えて貰ったけどね」


<浄霊・・・素晴らしいことだと思います>

 もっと早くに、ボクはここの人と出会っていれば・・・・・・


「まぁ、その浄霊ってのはまためちゃくちゃ大変で、時間も労力もかかるんだよ。現状、梓会長の負担が大きくてみんな心配しているよ・・・・・・」


 シャルルが遠い目をしている。


「あ、そうして、死にかけていたところに僕の話を聞いた日本のおばあちゃんが、わざわざフランスまで駆けつけて来てくれた。梓会長と一緒にね」


<そこで、シャルルと梓さんの初対面ってわけね>


「ああ。そうして僕はここへとやってきて、このでなら普通の暮らしが出来るようになった。本当に感謝しているんだ」


 シャルルの表情は恍惚とも言える穏やかで遠い目をしていた。本当に心底報われたんだなと感じる。


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