バームクーヘンはもう食べない

旧瀬昧

バームクーヘンはもう食べない

「お前も遂に結婚かー、いやおめでとう。」

「正直以外だったわ〜。」

「ほんと、綺麗…やべ、涙出てきた。」


いやぁ、ありがとうございます。正直照れますね。


「そういやこの前持ってきてた弁当、すごい美味そうだったな〜。」

「マジで?愛妻弁当じゃん!おい!熱々かい!」

「すっごい黄色くて綺麗な玉子焼き、入ってたよねぇ。羨ましすぎる!」


とぼけすぎですよ、もう。アンタ達知ってるじゃないですか。あの人が料理上手なの。


「ほんと、おめでとう!」

「ようやくくっついてほっとしたわ。」


いやぁ〜ね、自分の方から結婚しましょうって言いたかったんですけどね。なんか、先越されちゃいました、はは。


「ノロケは後にせんかい!」

「それもう聞いたよ!お腹いっぱいだって。」


すいません、嬉しくてつい。


「じゃあ、スピーチよろしく!」

「いよっ!待ってました!」

「よっしゃあ!かますぞかますぞ!」


…相変わらず騒がしい人達ですね。アイツら絶対仕事の延長線上だと思ってますよね。腹立つなぁ。でもなんか、照れますね。███さん。


「うん、嬉しいね」


僕もです、███さん。


絶対僕が幸せにしてあげますね。


―――


「おっかえりなさーい!ご飯できてるよ。」


ただいま帰りました、███さん。今日の夕飯はなんですか?


「煮込みハンバーグと、ポテサラでしょ?あとは余った卵白スープだよ!」


その情報だけでもう美味しそうですね。いつもありがとうございます。


「なんだよ改まって!わ…俺とお前の仲だろ?」


はい、ストップ。


一人称は「俺」じゃなくて「僕」、ですよ。また間違えましたね?███さん。


「あ…ごめん。ごめん、なさい。」


ここの所何回もミスしてますよ。どこか調子悪いんですか?ミスを連発するなんて、心配性で予行練習大好きな███さんらしくないじゃないですか。


「…ぁ。も…や、だ。」


はい?どうしました?


「もう…やめ、て、やめてください。」


何を?


「仕事とか、そんなの聞いてないしわかんないよ…もう、こんなロールプレイやめさせて。お願い。」


あー酷い。ロールプレイだなんて。なんてこと言うんですか。仕事なんて何年も一緒にやってきてるのに、というか、███さんはそんなこと言いませんよね。解釈違いなんですけど。


「っ、わたし、███じゃない。」


なんですって?


「私、███さんじゃない!貴方おかしいわ!」


おかしいのはあなたでしょう、███さん。


███さんはそんなこと言いません。███さんは僕の意にそぐわない行動は取りません。僕の全てを受け入れて許してくれる人なんだから。ねぇ。


「…貴方の言う███さんって、ちょっと前に結婚した人でしょ、上司の人が言ってた…。」


は?


「ちょっと、年下の、人と…。」


違う。


違う違う。


違います、やり直しやり直し。


███さんは結婚なんてしない。███さんは恋人なんて作らない。███さんは僕以外の特別なんて作らない。そうでしょう。


「貴方、おかしいわよ…。」


どうしたんですか███さん。そんなに怯えて。喋り方も変ですよ。


「っ…!おかしいのはっ、あなっ、あなた、貴方のっ、方よ!優しくしてとか!料理上手になってとか!全部、全部███さんと重ねてたってこと!?なにっ、それっ!」


あれ?なんかほんとに女の人みたいだ。違うよね、違うよね。


はいはい、やり直しやり直し。


███さん、男性ですよね?


ひょっとして、なんか怒ってます?


僕またなんかしちゃいました?またお弁当箱と水筒会社に忘れてきちゃったから?服脱ぎっぱなしにしたの忘れてそこら辺に投げてたから?それは、ごめんなさい。でも許してくれますよね?いつもそうしてくれてるじゃないですか。だって███さん、寛容だし。優しいし。叱るけど、結局僕のこと許してくれるもんね。お前ってそういう奴だよなって、しょうがないなって笑ってくれますもん、ね。


ね。


ね。


ね。


僕のこと、1番理解してくれてるの。


███さんだもんね?


「だれ、っか!だれかぁっ!けいさつ!けいさ、」


あれ。ほんとに███さんじゃないんですか。


「たすけて、っ、たすけっ。」


じゃあ、いいですもう。


「っ………ぁ………。」


なってくれないなら。


いらない。


なってくれないなら。


もういい。


なってくれないなら。


「ぐ…………ぅ…………。」


あ、やっちゃった。


どうしよ、さすがに不味いな。███さん、何とかしてください…っていないんだった。


███さん、どこいっちゃったんだろう。


僕を置いて行く訳ないよね。貴方は笑って、僕を待っててくれるもんね。こんなに恋しいなんて、僕って意外と寂しがり屋なのかも。早く、早く帰ってきて欲しいな。


「なんてね。」


僕の███さん、もう死んじゃったのにね。



―――



―本日未明、〇〇区〇〇町にて30代女性が殺害される事件が発生しました。容疑者と思われる男…女性の夫は、後追い自殺を図ろうとしている所を、警察に拘束された模様です。詳しい全容は、現在調査中との事です。


「…まさかこんな事になるなんてなぁ。」

「新婚アツアツ、って感じだったのに。」

「そういえば様子おかしかったけど。」

「なーんか結構参ってたみたいでさ、███が死んだって、繰り返し言ってたんだよ。」

「はぁ?███が?ぴんぴんしてんだろ。」

「███さん、子供も生まれるのにね。」


「あー…なんか…こんな時にこんなこと言うのもあれなんだけどさ。」


アイツの奥さん、███さんに似てたよね。

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