第3話 荒野の神殿と過去の秘密

シアンと共に学院を抜け出したのは、夜明け前だった。白い猫は先導役のように、軽やかな足取りで森の中を進んでいく。私もシアンも、学院から支給された簡易的な旅装を身に着け、緊張した面持ちで後を追った。




旅は想像以上に過酷だった。険しい山道を越え、広大な砂漠を抜け、ようやくあの映像で見た荒野に辿り着いた頃には、一週間近くが経っていた。灼熱の太陽が容赦なく照りつけ、喉はカラカラに渇いていた。




白い猫は、荒野の真ん中にある、崩れかけた神殿へと向かっていった。神殿はかつては荘厳だったのだろうと思われるほど、巨大な石造りで、無数の彫刻が施されていた。しかし、長い年月を経て風化が進み、彫刻もろくに判別出来ないほどだった。




シアンは、神殿の入り口付近で立ち止まった。どうやら、扉を開ける為には特別な呪文が必要らしい。シアンは鞄の中から古びた巻物を取り出して唱え始めた。すると、扉に刻まれた魔法陣が光を放ち、ゆっくりと扉が開いた。




中に入ると、中はひんやりとした空気に包まれていた。壁には、何かの儀式の様子が描かれた壁画が一面に広がっていた。壁画の人物は、魔法を使っているのだろうか?




奥へと進むにつれて、空気が次第に重く感じられてきた。そして、一番奥まった部屋に辿り着いた時、シアンの表情が固まった。




部屋の中央には、巨大な魔法陣が敷かれていた。そして、その魔法陣の中心には、黒い光を放つ、禍々しいオーブが浮かんでいた。これが、映像で見た封印なのだろう。




「…これが、闇の魔法を封印しているオーブです。本来はもっと輝いていたはずなのですが…」




シアンは沈んだ声で呟いた。どうやら、オーブの輝きが弱まっているのが、封印が解けかかっていることを示しているらしい。




ふと、壁画に描かれた儀式の様子が目に留まった。その儀式には、何人かの魔法使いがオーブに向かって呪文を唱えている姿が描かれていた。もしかしたら、あの儀式を行えば、封印を強化できるのではないか?




「シアンさん、あの壁画…もしかしたら、封印の強化方法かもしれません!」




私は、壁画を指さしながら言った。シアンも壁画を凝視し、考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。




「…確かにその可能性はありますね。ですが、壁画に描かれているのは、非常に高度な魔法です。今の学院には、それを扱える魔法使いはいないでしょう」




絶望的な気持ちに襲われた。せっかくここまで辿り着いたのに、何もできないまま引き返すのかと思うと、悔しさがこみ上げてきた。




ふと、白い猫が私の足元に擦り寄ってきた。そして、碧い瞳で見つめながら、かすかに鳴いた。その鳴き声には、何かを伝えようとしているような意志が感じられた。




「…もしかして、私にも何かできるの?」




咄嗟に、猫にそう話しかけてみた。すると、猫は再び鳴き、部屋の隅にある、埃をかぶった本棚の方へと向かった。




本棚には、古びた魔法書が何冊も並べられていた。猫は、その中の一冊を前足で引っ掻いた。シアンがその本を取り出し、パラパラとめくると、壁画と同じ儀式の様子がイラストで描かれていた。




「…これは…学院の創立当初に使われていた、失われた魔法の書ではありませんか!」




シアンは、驚きを隠せない様子だった。どうやら、この本には、壁画に描かれた儀式に必要な魔法が記されているらしい。




しかし、問題はその魔法を私が使えるかどうかだった。私は魔法が使えないどころか、魔法の素質すら持ち合わせていない。




「…私、魔法が使えないんですけど…」




そう呟くと、シアンは少し考えた後、真面目な表情で言った。




「…歴史書に、魔法が使えない人間でも、特別な触媒を使うことで、魔法を行使できたという事例が記されているのを思い出しました。もしかしたら、あなたなら… 」




シアンは言葉を濁したが、彼の期待が込められているのが伝わってきた。




壁画には、儀式を行う際に必要な触媒が描かれていた。それは、何かの宝石のような輝きを放つ装飾品だった。




「…もしかして、その触媒を探す必要がありますか?」




私の問いに対して、シアンは静かに頷いた。荒野の神殿

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

時空を超えた生徒会長 歴史の叡智で闇に抗え! 古代の物語を語る森の魔法使 @Takbest

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ