【朗読OK】君こそが幸せでありますように【フリー台本】

雪月華月

第1話 君こそが辛くても、幸せでありますように

#フォロワーさんのお題をもとにSSを書く

#フリー台本

(引用か、名前を書いてもらえれば大丈夫です)

(星降る夜)


 茉莉乃が死んだと聞かされたのは、久しぶりに帰省した時だった。

茉莉乃は高校時代の同級生で、少し学校を休みがちの子だった。

どうも長く不眠症を患っていて、眠たいのに寝れないなぁとあくびをしていたことを覚えている。


 そんな彼女に対し、僕は健康優良児であったけど、元気を持て余していた。

一応勉強だけはしっかりしていたけど、夜中に度々家を飛び出して、誰もいない小高い丘の展望台まで行っていた。星が抜群に綺麗なところだったから、そこで大音量で音楽をイヤホンで聴いていた。

 深夜をうろついているのはよくないだろう。だが手のかかる問題児にしては、問題が小さすぎて

僕のことは歯牙にもかけられてなかった。


「本当にここにいるんだぁ」


 茉莉乃に声をかけられたのは星が降るような、綺麗な夜空の日だった。

僕はびっくりして、持っていた、缶ジュースを取りこぼしそうになった。


「なっ、あ、なんでここに」


 彼女は小悪魔のように、いたずらっぽく微笑んだ。


「いや、噂でね、君がここでふらついてるって聞いたもんだから、来ちゃった」


「ええ……」


 ここは僕の言って見れば楽園、僕だけの聖域のはずだった。

なのにその聖域はあっさりと侵入されるくらいあっけないものだった。

彼女は目の隈や体調の悪さを感じる顔色を隠さなかった。


 不眠症がよほどひどいと聞いていたことを急にまざまざと感じさせた。


「ここ、すごいねぇ、星が降っているみたい」


 彼女は満足げに口元を緩めながら、夜空を見上げた。

今日は別に流星群の日でもなんでもないのに、白銀の星が夜空を舞っていた。

望遠鏡がなくても異様に星が近い夜だった。


「お前、明日から入院じゃなかったっけ」


 そのため、茉莉乃は今日は半日で早退したのだ。


「そうだね、しばらく、入院ー」


「いいのかよ、ここにいて」


 彼女はつまらないと言わんばかりに唇を尖らせた。


「しばらく、外の世界に戻って来れないのよ、最後くらいいいじゃない、好き勝手しても」


 まあ、確かにそう思う気持ちはわかる。

何か事情があったら全部が許されるわけじゃないが。

僕だって、再婚して弟が産まれて、いづらくなった家に居たくなくて、ここにいるわけだし。


 逃げたい時はある。

やっちゃいけないことをやりたくなることもある。

現実から逃げちゃいけないかもしれないけど、現実を全て飲み込めないことだって……。


 彼女はフワッとした口調で言った。


「こんな綺麗な夜を見たんだったら、このまま終わってもいいかなぁ」


「終わる?」


 僕は彼女の言葉をストレートに理解できなかった。

理解を拒むほどに、彼女の声はノーテンキだったからだ。


「死んじゃうってこと」


 やっぱそういうことを言ってしまうのか。

なんとなく、そう言うのではないかと思った。

だから、あえてすぐに気づかないようにしたのに。


 彼女の病的に悪い顔色は、彼女の味わってきた苦しみの色なのかなと思った。

噂では茉莉乃の病気は相当に悪いと聞こえてくるくらいだった。

生きているのが不思議なくらいだと、言う話も聞いていた。


 ……死ぬなよ、と言うのが筋なのかもしれない。

でも、それは言えなかった。

本当に苦しんでいる人に、それ以上の苦しみを与えるような気がして、言えなかった。


「あれ、ここで言うことってないの? ドラマの主人公なら、死ぬな!とかだと思うけど」


「僕、ドラマの主人公じゃないし……終わりたくなるって言うか、消えたくなる気持ちは少し分かる」


「ほう、そのこころは」


「うちに僕、今居場所ないんだよね……全部が生まれた弟中心に回ってて、僕はまるで幽霊みたいで

幽霊のように扱われるなら消えちゃっていいかなって思ってしまう」


「はは、病んでる」


「君もな」


 僕たちは笑い合った。


「生きるって地獄だと思うんだよね、死ぬまで終わらない地獄だと思う」


 まったく同意見すぎて、怖いくらいだ。

僕は頷いて、茉莉乃の話を聞いた。


「でも生きてて、その時々に光があれば私たちって、なんだかんだ生き延びられるんじゃないかって急に思った」


 彼女はヘヘッと声を上げて笑った。


「私はそれが、今夜星を見て、君と話したってことであってほしい」


 ダメかなと言う、彼女の声は心細そうに震えていた。

普段なら、女の子にそうされたら臆してしまうのに、僕は彼女の手を取った。


「そうだね、そうであってくれって、僕も思うよ」


 僕と茉莉乃の心的距離が縮まってくのを感じた。

星空は今でも忘れられないくらいに輝いていた。

たった二時間の出来事だったのに、心に刻みつけられる記憶だった。


 でも、彼女は死んでしまった。

 病気でなのか、事故なのか、それとも……原因は知ることができなかった。

ただ人伝(ひとづて)で、茉莉乃からのメッセージを受け取った。


 封されたメッセージカードには一言書いてあった。


【君が苦しくても、幸せでありますように】


 ああ、と思った。


 ずるいじゃないか、僕からすれば


【君こそ辛くても、幸せでありますように】


だったのに。

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【朗読OK】君こそが幸せでありますように【フリー台本】 雪月華月 @hujiiroame

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