箱専用車両
つばきとよたろう
第1話
満員電車に乗り込んだ。箱専用車両であることに気づいた。仕舞ったと思ったときには、目の前の扉がぷしゅーと空気が圧縮された音と共に閉まった。後悔を胸に抱いて、電車は走り出した。車両の中は混んでいた。箱、箱、箱。絶妙なバランスで箱はうず高く積み上げられていた。足の踏み場もないくらいだった。立っているのがやっとだった。空いている席を探して、車内を忙しく見渡した。テトリスの、隙間は空いているのに身動きが取れない状態に似ていた。紙相撲のように、電車が走る振動で箱がぼくの側に集まってきた。座席には全部箱が陣取っていた。そこに小さな箱を見つけて、ぼくは手に取った。軽かった。このくらいなら足の上に載せていても大丈夫だ。ぼくは空いた席に座って、箱を膝の上に置いた。ほっと息を吐いた。箱はぼくの膝の上で、まるで猫みたいにじっとしている。大人しいものだ。車両が時々ガタゴトと揺れる。それに合わせて箱も揺れる。崩れないのが不思議だった。箱は崩れそうになってもまた揺れると戻って、絶妙なバランスで積み上がっている。中には重い物が入っているのか、微動だにしない箱もあった。何が入っているのだろう。人の顔を眺めるように時々考えた。服や本、雑貨、新品な物、古い物、色々な人の思い出が詰まっている物もあるだろう。すると視線を感じた。目だ。ちょうど人の顔の高さに積まれた段ボール箱の側面に二つの穴が空けられていた。ぼくは見られている。あまり人に見詰められるのは得意ではなかった。急に居心地が悪くなって下を向いた。小さな箱が気持ちよさそうにぼくの膝の上に載っている。車両がガタンガタン言った。箱がゆっくり揺れた。ぼくの心もそれに合わせて揺れるようだった。もう一度確かめてみる。どこへ行ったのだろう。穴は見えなくなっていた。間もなく下車する駅だ。ぼくはこのままこの車両に乗っていたかった。この箱たちがどこに運ばれるのか見届けたかった。
箱専用車両 つばきとよたろう @tubaki10
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