窓辺の異変。

なにものでもない。

第1話 ファミレスの窓辺から

東京某所、貸しビルの二階に商業施設が多数ある。

その道沿いの所に地方から全国区に進出した安いファミレスがある。

時間は昼過ぎ、

二人の若者がドリンクバーを何度も往復しながら時間を持て余している。

「まさか、渋谷でゲームのチューニングで食えるとは思えなかった。もう三年目だけど。好きこそものの上手慣れだな。」

そう言ったのは髭が濃いい高沖進、25歳。大学を遊びまくって何とか卒業し、ゲーム三昧で遊びでデバックの会社を面接したら受かって今がある。

「とにかく目が疲れるよ、俺は家ではラジオしかつけないんだ。スマホもPCも見ない、テレビないからね。携帯ゲーム機もほとんど触らない。」

そう言ってフライドポテトをほおばるのは芥川白洲、25歳。高沖の高校時代の友人で高校卒業後に一応工場勤務に就職したが職場の冷めた人間関係に疲れてやめてからぶらぶらしていたら高沖に誘われて今のところにいる。


白洲は格闘ゲームが好きで地元ではかなりの強者である。eゲームに参加しようと思った時もある。


「まあ、とにかくひたすら作業だからね。レポートがペンで紙に書いて提出するのが逆にアナログで助かる。まあ汚い字だとだめだけどね。大体半端な覚悟でバイトではいったのは3人に2はすぐいなくなるね。とことん地味だから。」

「ま、レースゲームのカンストとか、格ゲーの組み合わせの連鎖とか、脳みそ使わなきゃできないし、最近さあ、ソシャゲのデバックが辛くないか?」

「あれは確かにねえ。俺人間関係狭いしあまりにスマホを見続けるからガラケーに戻したくなってるよ。4Gのガラケーはまだ売ってるからな。」

「本当、携帯会社の陰謀だよなあ。70代の人の5人に一人は依存症だとさ。怖い時代だ。さて、暇だから始めますか?」

高沖と芥川はオペラグラスを手にして窓際の席から周辺を見回す。怪しまれないようにくるくる視線を動かして目標を定める。

「あのオフィス、会議中だな。どちらから始める?俺はネタが浮かんだよ。」

「じゃあ進からね。どうぞ。」

高沖進はオペラグラスを外して、ぼーっと見えるオフィスを見ながらアドリブアフレコを始めた。

「はいはい、今日は屁の研究です。皆さんは全集中の呼吸で屁で返事をするように、ほら、声はダメだ。ハイ君!」

高沖はノリノリで屁を口で表現する。勿論小声で。

「ぷ~、ぷ~。ばふん。この資料のホッチキスがすぐに外れるんですけど。」

「ぶりっ。そんなことはどうでもいいんだ。ハイ君!」

「ぽわ~。ぷーぷーぷー。そろそろヤニ補充いいですかね?この会議はもう二時間経ってますから。」


進がアドリブで屁のネタをして白洲は大笑い、しかし二人は気付いてなかった。すぐ隣の席にそれなりに売れている作家が〆切から逃げてきて新聞を読んでいるふりをして二人の会話を聞いているのを。


「じゃあ俺はねえ、あそこの女子集団にしよう。」

白洲は通りを歩く女子高生たちを見て始めた。

「ねえ、アンネの日なのよ。もうマクド行って帰ろうよ。あたしイライラして男が欲しくなるわ。妊娠しないし、したいなあ。」

「色情狂にはまだ天気が明かるわよ。歌舞伎町の街角に立つわけにはいかないでしょ。あたしたち華の女子高生よ。もっと欲しいものがあってもバイトして買う。

それしかないわ。パパ活なんてばかみたい。それとか地下アイドルとか、普通に韓流のイケメンのポスター欲しいくらいでいいのよ。」

「ああ、ケツかゆ、毛糸のパンツなんて履いてくるんじゃなかったわ。あと少しで春なのに寒いわねえ。あ、焼き芋売ってる。買おうよ、温まりたいわ。」


白洲の妄想女子高生に進も大笑い。


二人はそれぞれネタを出し合って満足して、酒を飲み始めた。


そこまで聞いていた煮詰まった作家は会話でひらめいた。

そそくさと席を立ち帰る作家、彼の長編小説の締め切りの文章が生まれたのだ。担当編集には謝らねばならないがとにかく帰ったら書けると確信して、電車に乗って帰った、帰宅中にスマホにネタの単語を次から次へと入れていき、帰宅したときには編集が怒りの顔をしていたが、

「ごめん、二時間であげるから茶でも飲んでて。」

そして仕事場にこもってその通りにあげた。


進と白洲は三杯目のビールを空けて、そろそろ帰宅の足取りだ。

「明日の昼から36時間の耐久レースだ。ブラックじゃないけどクライアントが無理いうよなあ。まあ給料はいいからね。使わんけど。」

「俺もねえ、服は古着でいいし、発売後は職場のゲームは売買をしないという条件でいくらでも貰えるからなあ。本当、金使わんね。」

「Wi-Fiの容量制限は外さんだろ?だって無制限だったら延々と動画見ちゃうもんなあ。あれは人をダメにする。俺は有料放送の録画をじっくりでいい。実家だし。親父が映画好きでよかったよ。」

「さて、大分回ったから帰ろうか。俺たちもたった三杯でこんなんだから飲み会で女の子と会話すすまんもんね。同世代の女子は酒強すぎるよ。じゃあ行こうか。」

二人は京浜東北線で自宅へ帰った。

進は実家。白洲は親戚が不動産屋でぼろだが広い部屋を安く借りている。そこに女性を連れ込むほどまだ女性慣れはしてない。


まだ夜の11時です。


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窓辺の異変。 なにものでもない。 @kikiuzake001

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