猫と言えば箱。

ふさふさしっぽ

本文

 ――とある一軒家のリビング。

 段ボールの箱がひとつ、開けられた状態で置かれている。

 ネット通販、ア〇ゾンの箱かも知れない。

 なんの箱なのかは、この家の飼い猫二匹には関係なくて。

 猫にとって、箱は箱、なのである――。



「この箱に入ってはならニャイ」


 先輩猫はそう言った。


「どうして? 僕もその箱に入りたいよ。僕だって入ったっていいじゃない」


 まだ子猫である新入り猫は先輩猫を恐れず、意を唱える。


「この箱は俺様のお気に入りの箱だからニャ。いわば俺様のテリトリー。新入りのお前に渡すわけにはいかないニャ」


 先輩猫はそう言いながら飛び込むようにして、箱に入った。箱の中で丸くなる。


「ずるいーー! 僕も入れてよ、箱に入りたいよーー!!」


「これだから最近の若猫は。先輩猫に対する礼儀ってものを知らないニャ。新入り猫がそう簡単に先輩猫のテリトリーに入れると思うなニャ」


 猫の世界は案外縦社会なのである。

 もともと猫がいる家に新しい猫を迎えると、最初はなかなか馴染まないこともある。

 だがこの新入り猫は図々しかった。

 目の前に段ポールの箱がある。箱があるなら入りたい。箱があるなら入るのが猫だ。猫と言えば箱に入る。猫を飼ったことがある人は分かるはずだ。


「先輩なら可愛い後輩に箱を譲ってよ」


 新入り猫は箱に前足をかけて、箱に入ろうとした。


「シャーー!! ダメだニャ! 口の利き方も知らない新入りニャ!」


 先輩猫は新入り猫を威嚇し、新入り猫の前足を自分の前足ではたいた。


「叩いた! パワハラだ!!」


「パワハラじゃないニャ、猫界の教育ニャ!」


「先輩、語尾にいちいち『ニャ』ってつけるの、もう古いよ? いくら僕たちが猫だからって、いかにも猫がしゃべってますって感じで時代遅れ」


「え? そうなのかニャ。飼い猫になると猫界の流行に鈍感になるニャ」


「最近の飼い猫は完全室内飼いが推奨されているからね。ま、そういうことで、それじゃ、おじゃましまーす」


 新入り猫は強引に先輩猫が入っている箱に入った。


「こら! この箱は俺様のテリトリーだと」


「パイセン、硬いこと言わない」


「先輩と言えーー!」


 箱に猫が二匹収まった。


「狭いニャ……」


「そのうちまたご主人様がア〇ゾンで買い物して、もうひとつ箱増えるから大丈夫だよーー」




終わり。

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