第3話 自己証明 ~ 東京 太郎 ~ 02
「わあっ……! すごい、すごすぎるよ」
私は思わず叫んでいた。
そこに広がる光景は私にとって楽園だった。
「奈々子さんが暇をみては片付けているんだけど、まだ途中なんだ」
そこにはありとあらゆる小物のアンティークが置かれていた。
大きなテーブルが三つあって、日本と欧米と中国のものに分けられていた。
日本のものを見ると、私がこの間買ったような招き猫や、犬やキツネなどの動物の陶器の人形や、小皿、懐中時計、なにかの測定儀、戦時中のお人形などがところ狭しと並べられていた。
そこにはかなり古いミニカーやブリキ細工のおもちゃなども混ざってる。
そして欧米のコーナーでは貴族が身につけていたようなアクセサリーや化粧道具、アーリーアメリカンな真鍮製の水道の蛇口やドアノブや取っ手、ホーローの花瓶や食器、じょうろやスコップなどのガーデニングの道具などがあり、中国のコーナーでは古い磁器の器や絵皿などがいっぱい並んでいたのである。
「これは奈々子さんの親父が収集したものらしい。
まあ、俺の祖父になる。
……俺がこの家の子供になる前に死んじゃったんで、こいつらの出所や由来はわからないけどな」
「これも骨董市で売るの?」
「ああ、ここにあるのは奈々子さんが売ってもいいように整理してるんだ。目録ができたら売るんだろう」
「ふーん。じゃあ下手に触って壊さないようにしなきゃダメだね」
「いや、ここにあるのは、ほとんど価値はないみたいだ。別に触ってもいいぞ」
「ええっ、触っていいの?」
許可をもらった私は、それこそふらふらと熱に浮かされたみたいにアンティークの花園へとさまよい込んだ。
「……かわいい。……きれい」
まるでうわごとのように私はひとりつぶやく。その間しっかり二十分は経っていたと思う。
「ふう……」
ようやく一巡り見終わった私はため息をついた。
もしこれだけのコレクションが私の周りにあったら、それこそ毎日ため息をつきまくっているに違いない。
「……ようやく見終わったか」
「うん。ごめんね。いっぱい待たせちゃった」
「別にいい」
公平くんはそう答えた。
そして意外なことを言う。
「……欲しかったら、いくつか持ってっていいぞ。俺公認で許可できる」
「えーっ、いいよ。これってお店に並ぶんでしょ。
そのとき気に入ったものを買えるだけ買うから。私はそれで十分だよ」
「……お前、欲がないんだな」
公平くんは感心したように言う。
それから私と公平くんは倉を後にした。
公平くんいわく奈々子さんが屋敷で私を待ちわびていると言うのだ。
「奈々子さんが、お前と話すのを楽しみにしてる。頼むから母屋まで来てくれ」
そう言われたのを断る理由はない。
これだけ目の保養をさせてもらった。
おもてなしを断ったら、申し訳ないと私は考えた。
「ごめんなさいね。
この子ったら、あなたが来ることを急に連絡してくるんだもの。
本当だったらお手製のものを食べてもらいたかったわ」
屋敷に到着して洋間の応接間で、私は奈々子さんから自慢の紅茶とケーキを振る舞われた。
奈々子さんは今日もしっかりお化粧していて、とても美人だった。
「いいんです。勝手に押しかけたのは私の方ですし、かえってすみません」
私は差し出された紅茶を一口飲んで、チョコレートケーキに手をつけた。
「おいしい……」
それはため息が出るほどおいしかった。
「奈々子さんはいつも決まった店でしか、こういうのを買わないんだ。頑固でね」
「あら、昔からおいしいってのがわかってるお店で買うのが、いちばん間違いないのよ」
私はなんだか奈々子さんと公平くんがうらやましかった。
互いに掛け合う言葉の呼吸が合っていて、とっても仲がいいのがわかる。
強いて言えば年が離れた友人同士に見えるのだ。
私と私のお母さんも決して仲が悪いことはないけれど、あくまでも親と子の立場であってそれ以上でもそれ以下でもない。
こうして軽口を叩く関係とはほど遠い。
「奈々子さんと公平くんは昔から仲がいいんですか?」
気がつけば私はそんな失礼な質問をしてしまっていた。
だけど、この二人には全然問題ないみたい。
「そうねえ。……やっぱり親子だからかしら?」
「血はつながってねえよ。奈々子さんが特別なんだ」
「あら、私が特別って言うのなら、そんな私の相手ができる公平も特別じゃないのかしら?」
どうあっても、そんな風に楽しそうな会話になってしまうのである。
そしてそんな雰囲気がそうさせたのか、それとも魔が差したのか、私は禁忌を口にしてしまっていた。
「……実は私も養子なんです」
「へえ。お前もか?」
「あら、偶然ね。他人とは思えなくなっちゃったわ。これからもよろしくね」
ところが返ってきた返事は拍子抜けするくらい、他愛ないものだった。
公平くんは全然驚いていないし、奈々子さんに至っては私との共通の話題が増えたことが嬉しいみたいに思えた。
「俺は八歳のときにこの家に来た。お前はいくつのときに養子に入ったんだ?」
「……まだ、うんと小さいとき。詳しくは教えてくれないの」
「ご両親が?」
「ええ。……私の家ではこのことは絶対のタブーなんです。
だから公平くんの家で話しちゃったってばれたら、きっととっても怒られちゃいます」
「まあ、……家庭の事情ってのはそれぞれだからな。
でも知りたけりゃ自分で調べればいいだろ?」
「えっ、自分で? ……どうやって?」
「簡単だろ。市役所行って戸籍を取ってくれば書いてある」
公平くんは、なにを馬鹿な、って顔で私を見た。
「ええっ。そうなの?」
「そうよ。
……でもご両親が内緒にしておきたいってことは、なにか事情があるのだから、よくよく考えてからの方がいいと思うわよ」
奈々子さんは、深くうなずきながらそう告げた。
でも、私には良くない考えが浮かんでしまった。
市役所でわかるなんて、思いもよらなかったからだ。
……いつか行ってみよう。私は密かに決意した。
「今日はアンティークを見せていただいて、その上ごちそうまで。本当にありがとうございました」
私は気がついたらすっかり遅くまで滞在してしまっていた。
「あら、もう帰るの? よかったら絶対にまた来てね。
……ふふふ。公平が女の子を連れて来るなんて初めてだから、とっても楽しかったわ」
「だから勝手に舞い上がってたのか? それに余計なことは言うな」
私は、最後まで掛け合い漫才のような奈々子さんと公平くんと過ごした時間が、とっても楽しかった。
正直、また来たいと思っていた。
そして、私は我が家へと帰ったのである。帰宅が遅くなったことで、私はお母さんに注意された。
でも、友達の家にお呼ばれされた理由を話すと簡単に許してくれた。
「まあ、そういう事情があったのなら、仕方ないけど。今度は事前に連絡をちょうだいね」
お母さんはそう言って笑顔になってくれた。
でも、私がタブーを犯したことまでは話さなかったので、心がちくりと痛んだ。
その夜、私は自分の部屋の整理をした。
ミニカーと招き猫を置いた棚の上をきれいにして、これから増えるはずのコレクションが置けるように準備したのだ。
私の生活はこれからきっと変化する。
私はそう確信した。
新しい知り合いが増えたこと、そしてコレクションが増える予定のことがそれを意味する。
でも、変化はそれだけでは終わらなかった。
水曜日のことだった。その日は授業が一時間少なくなったことから、私は早めに下校することができた。そしてバスを待っているとき、
「あ、そう言えば……、まだ間に合う」
私は戸籍のことを思い出した。
戸籍を見れば養子かどうか、すぐにわかると、おととい公平くんの家で言われたことを……。
私はバスに乗り、市役所前で降りた。
市役所はまだ開館時間なので、利用者がちらほら見えている。
そして受付で戸籍担当の窓口を教わり、十分後には戸籍謄本を手にしていた。
私はドキドキしながら、中身を見た。
――養女だった。
「……
私の生みの親はそうなっていた。
私はなんだか拍子抜けというか肩すかしを食らったというか、……とにかくしっくりこなかった。
東京太郎、東京花子の名前はそれこそこの市役所などにある提出書類の見本に書かれているような見本としての名前と同じだからだ。
全国の東京太郎さんや東京花子さんには申し訳ないが、この夫婦が実在するとは思えなかったからだ。
あからさまに作為的で偽名にしか思えない。
だけど東京夫妻の名前以外は納得できる内容だった。
私が養女になったのは一歳のとき。
それなら私にはもらわれっ子である記憶が無くて生まれたばかりの頃の写真が無いのも当然だと思う。
私はなんだか、このあっけない結果にポカンとなっていた。
そして市庁舎を後にしたときだった。
ふと気がつくとコンクリートの柱の陰から私を見ている人がいるのがわかった。
その人は中年の男性で頭にはツバの狭いソフト帽を被っていてベージュ色の薄手のコートを羽織り、その中に着ているのは地味なグレー色のスーツだった。
遠くて表情は見えないのだけど辺りにいるのは私だけなので私を観察していると思ったのだ。
「……誰だろう?」
でも、私はそのときはあまり気にかけなかった。
ここは市役所でスーツ姿の男性などたくさん見かけるからだ。
そして帰りのバスに乗って帰宅した。
すると今日はお母さんも帰りが早かったようで居間にいてテレビを見ていたのである。
「あら、今日は一時間早く帰れる日じゃなかったの?」
私がリビングに入るとお母さんがそう訊いてきた。
「……う、うん。でも教室で友達とおしゃべりしてたから……」
――嘘だ。
――だから心がチクリと痛んだ。
今、目の前にいるお母さんは私のお母さんだけど、やっぱり本当の産みの親じゃないことがわかると、なぜか目を合わせることができなかった。
私はそそくさと自室に入った。
そして制服を脱いで部屋着に着替えるとベッドの上に横になる。
手には戸籍謄本。
「……東京太郎か」
ひとりつぶやいた。
――そのときだった。
突然、電話の着信音が鳴り響いた。
私はドキリとしてスマホを手にした。
すると見知らぬ番号からの電話だとわかる。
呼び出し音は止まることなく鳴り続ける。
私はどうしようか迷ったけれど、とにかく出てみることにした。
「はい」
『大林こづえさんですね?』
電話の声は大人の男の人からだった。
「……は、はい。なんでしょうか?」
『私、東京太郎と申します』
「……っ!」
『意味、わかりますよね? あなたの本当の父です』
私の額には汗が伝った。
呼吸も荒くなり、肩で息をしてしまう。
「……お、お父さん?」
『ええ。そうです。どこかで会えませんか?』
――絶句。
そして思った。
なぜ、なぜ今なんだろう?
もし、本当の産みの親なら会ってもいいと思った。
もちろんどんな顔で、どんな仕事をしていて、どこに住んでいて、そしてお母さんである東京花子さんのことを訊きたいと思ったからだ。
――だけど、私には直感があった。
それは危機を察知するような予感とも言えた。
「……ど、どうして私の電話番号を知ってるの?」
『ある人から聞いたんです』
東京太郎さんは、そう答えた。
私は必死に考えを巡らす。
私の番号を知っているのは、まず両親。
だけど私が養子の話はタブー。
だから両親から知らせたとは思えない。
……それに両親が教えたのなら、そのことを私に必ず告げているはずだ。
だから両親は却下だ。
次に考えたのは絵里香たち、……つまりは学校の友人たち。
だけど彼女たちは私が養子であることすら知らないのだから、東京太郎さんにそのことを伝えられる訳がない。
……だとすると公平くん?
だけど私はその考えも否定した。
公平くんは確かに私が養子であることは知っているけど、産みの親の東京太郎さんの名前のことは知るはずがない。
だいいち私だってついさっき知ったばかりだ。
つまり、思いつく限り該当者はなし。
……だとすると。
不気味さのあまりに急に背筋の筋肉が強ばるのを感じる。
「……え、ええと。ちょっと会えないです。体調が悪いんです」
『そうですか……。でも先ほど市役所で見かけたときは、そんな風には見えなかったですよ』
私は、ゾゾゾと寒気を感じた。
……あ、あの人っ!
私は、市役所の柱の陰から私を見ていた中年男性を思い出していた。
たぶんその人に間違いない。
……や、やめてよ。
私はぶつりと電話を切った。
そして今の番号をすぐさま着信拒否に指定する。
それから私は怖くて布団を頭から被ってしまった。
しばらくして私は今の出来事を、お母さんに話そうかと考えた。
だけど、やっぱりお母さんたちにはこの件は話せないと思った。
もし私が言えば、逆にお母さんから質問を受けるに違いない。
そうしたら、私が公平くんと奈々子さんに養子であることを伝えた話と、今日、市役所に行って戸籍を取って来たことも言わなければならないからだ。
「……そ、そうだ」
私は掛け布団をがばっとはね除けると、スマホの記録したばかりのメモリー機能を呼び出した。
そして急いでコールした。
「もしもし。私、大林こづえ」
『ああ。どうした?』
電話の相手は公平くんだった。
私がなぜそのとき公平くんに電話をしたのかはわからない。
だけど、この件は公平くんにしか話せないと思ったのだ。
それは私が養子であることを知っている数少ない人物って言うのもあるけれど、なによりもいつも冷静で頭が切れる性格の公平くんなら話し相手になってくれると思ったからだ。
だから絵里香たち、……つまり女友達じゃなくて、男の公平くんを選んだのだ。
「あ、あのね。急で悪いんだけど、ちょっと話したいことがあるの」
『……今からか?』
「うん。電話でもいいんだけど、できれば会ってくれると助かるんだけど……」
『ああ、わかった。じゃあ神社はどうだ? そこなら俺とお前の家の中間になる』
「うん。わかった。私、バスで行くから」
外は少し暗くなってきていた。
神社に向かう道の途中は少し人通りが少なくなるから、この時間だと歩きで行くのは怖かったからだ。
『ああ。じゃあ先に行って待ってる』
そう言って公平くんの電話は切れた。
私はなぜだかほっとした。
それは、これから頼りになる相手に相談できることが決まったからだと思う。
そう、……気がついたら私は公平くんを頼る人間になっていたのだ。
お母さんに「友達に会ってくるから」と断って外出した。
私は辺りをうかがっていた。
もしかしたら東京太郎さんが待ち伏せしているかもしれないと思ったからだ。
どういう方法を使ったのか知らないけど、東京太郎さんは私の電話番号を知っていた。
だから、このマンションの住所だって簡単に調べる方法があるかもしれない。
でもそれは思い過ごしだったようで、近くには誰の姿もなかった。
私はバスに乗り、神社の近くの停留所で降りた。
そして神社の境内へと向かった。
そこは小さな公園も兼ねていて、ブランコや滑り台などがある。
でも、夕方で暗くなるこの時間に遊んでいる子供たちは誰もいなくてシ~ンしていた。
私は日曜日に開催された骨董市を思い出していた。
あの日はかなり人出があって拝殿に向かう石畳の両側はびっしりお店で埋まっていた。
だけど今はそんな面影はまったくなくて、たったひとりの人物だけが私を待っていてくれる。
それが……、公平くん。
ブランコの前に自転車があって、それに乗ってきた公平くんがひとりブランコに座っていたのだ。
「お、お待たせ」
私は小走りにブランコへ向かう。
すると公平くんが私に気がついてくれて手を振ってくれた。
「いったい、どうしたんだ?」
私は公平くんの隣のブランコに腰掛けた。
そして、足で地面を少し蹴ってみる。
するとブランコはギーコギーコと音を出して私を前後に動かした。
「……あのね、私、今日市役所に行ったの。戸籍謄本の件でね」
「わかったのか?」
「うん。そしたら私、やっぱり養女だった。
一歳のときに養子になってたの。
でね、私の産みの親の名前は東京太郎と東京花子になってた」
すると公平くんは真剣なまなざしで私を見た。
「……そのふたりって、実在する人間か?
なんだかあからさまに作為的な名前だな」
「うん。私もそう思った」
「……でも、なんかあるんだろ? お前の顔、真っ青だぞ」
「ええっ……?」
言われた私は自分の顔を触ってみた。
すると心なしか、いつもよりひんやりとしていた。
「うん。……あのね。市役所から家に帰ったの。そしたらスマホに知らない番号からの着信があってね。
……出てみたら東京太郎っていう人から電話だったの。
それだけじゃなくてね、私、東京太郎さんを見たの。
市役所で柱の陰から私を見ていた知らない男の人がいたの」
「な、なんだって!」
私はそのとき、公平くんの驚く顔を初めて見た。
「じゃあ、東京太郎は実在するのか?」
「う、うん。……よくわからない」
「じゃあ、両親に訊いてみることだな」
「ええっ! でもウチではその話は絶対のタブーなんだよ」
「でも、事態が変わったんだ。お前はそのことから逃げちゃダメなんじゃないか?」
「……う、うん。そうだよね」
私は渋々ながら同意した。
確かに公平くんの言う通りだ。
「もし、東京太郎が本当にお前の実の親なら、覚悟しなきゃならない」
「か、覚悟?」
「ああ。今になって連絡してきたってことは、もしかしたら、お前を引き取りたいのかもしれない」
「……っ!」
私は絶句した。
言われてみればその通りだ。私はどうしたらいいのか、わからなかった。
――そのときだった。
私のスマホに着信があったのだ。
見ると、またしても知らない番号だった。
「どうした? 出ないのか?」
「う、うん。……知らない番号なの?」
「東京太郎か?」
「ううん。その番号は着信拒否に指定したから、違うと思う」
「じゃあ、出てみればいい」
「うん」
私はボタンをタッチして電話機を耳に当てた。
「……もしもし」
『東京太郎と申します』
「……っ!」
私は瞬間的に通話を切ってしまった。
ゾゾゾと寒気が走る。
背中に冷たい氷を押しつけられた気分だった。
「……東京太郎なのか?」
「う、うん……」
「着信拒否に指定したんじゃなかったのか?」
「う、うん。でも全然違う番号だったんだもん」
「なら違う電話から、かけてきたんだろうな」
公平くんは、東京太郎さんが何台もの電話機を持っている可能性を指摘した。
更に私の電場番号をなぜか知っていて、それは『ある人に聞いた』と東京太郎さんが言っていた件についても、おそらく通常ではない方法で突き止めた可能性があると言った。
私は納得したけれど、怖さは消えなかった。
「ま、とにかく。お前は両親に訊いてみるんだな。そうすれば自ずと答えが見つかるはずだ」
「う、うん」
それから私は帰ることにした。
公平くんは私のマンションまで送ろうと言ってくれたけどバスに乗るから大丈夫だと答えたのだ。
「……でも、東京太郎はお前につきまとっているんだろう?」
公平くんはそう話を切り出した。
「だとすると、万が一そのバスに東京太郎が乗っていたら、どうするんだ?」
「……あっ!」
確かに公平くんの言う通りだ。
私は膝がガクガク震えてきた。
「奈々子さんに頼んでみる。車で送ってもらおう」
公平くんはそう提案してくれた。
そして私は公平くんの家まで行き、奈々子さんが運転するワゴン車に乗せてもらった。
そして自宅のあるマンションへと向かったのである。
私は今日一日の出来事を奈々子さんに話してしまっていた。
奈々子さんも公平くん同様に冷静で分別がついている大人の人だからだ。
「大変だったわね。
……公平の言う通りじゃないけど、やっぱりこづえさんは、ご両親に相談してみるのがいちばんよ」
奈々子さんはハンドルを握りながら、そう答えた。
「もし、それで本当に困ったことになったら私を頼って。
……こう見えても実は頼りになるのよ」
奈々子さんは前方方向へ視線を向けたまま、真剣そうな顔でそう言った。
その声には冗談や社交辞令ではない、なにかを感じさせた。
私はそれが心強かった。
「はい」
私は静かに頷いた。
こうして私は奈々子さんと公平くんに自宅マンションの前まで送ってもらったのだった。
私が車を降りたあと奈々子さんの車が走り出す直前に助手席に座る公平くんが窓を開けた。
「結構ヘビーな問題だ。
お前は両親から、なにを言われるのかはわからん。
だがヤケは起こすなよ。解決できそうになかったら、いつでも構わない。連絡してくれ」
「……え、……あ、……うん」
私はマヌケな返事しか出来なかった。
でも頼ってもいいと言ってくれる人たちがいることがとってもとっても嬉しくて涙があふれそうになった。
「……じゃあ」
と、言葉を残すと公平くんを乗せた車は走り去って行ったのだった。
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