case

林きつね

case

 case1


 大きな箱と小さな箱の前に、正直者と嘘つきが立っている。

 正直者は言う。


「俺はお前が得をするのが嫌だから、大きい箱も小さい箱も全部一人独り占めしたいと思っている!」


 それに受けて嘘つきは言う。


「お、俺はお前のことが大切だから、お前の好きにしたらいいよ。俺はそれを後ろで眺めているからさ」


 嘘つきは背中に隠した刃物を強く握りしめた。

 やがて箱の前には二人の人間の死体が転がっていた。箱の中身はなんだろな。



 case2


「俺はこの箱の中身を知っているぜ! この中にはな、呪いの人形が入っているんだ。開けたら最後、周りの人間はみんな死んでしまうんだ! だから絶対、開けるんじゃあないぜえ〜」


 男が一人、二つの箱の前で得意げに言う。

 片方は大きな箱、もう片方は小さな箱。

 男の周りに他の人間はおらず、男に怪しい箱を開けてみる勇気もない。

 この場合、男が嘘つきだろうと正直者だろうと特に意味はない。

 やがて男は去った。箱の中身はなんだろな。



 case3


 大きな箱と小さな箱の前に、正直者のバッファローが立っている。立っている、というのはあくまでも"そこにいる"という表現の形であり、実際に二足で立っているわけではない。

 正直者のバッファローは言う。


「ブモ、ブモモ〜ブモモモ〜ブ〜モモッモッモモウ!」


 正直者のバッファローはそれぞれの箱の中に何が入っているかを伝えた。わかっただろうか?

 箱の中身はなんだろな。



 case4


 暗闇の中で、ソレは思う。


(隣の小さい箱にはなにが入っているんだろう)


 ソレはずっと大きな箱の中にいる。誰かが開けてくれれば外に出られるが、自分の意思では出られない。

 ソレは箱の隙間からずっと外を観察し、訪れるもの達を見てきた。

 諍いを起こしたりそもそもなにがしたいのかよくわからなかったり、そもそも人間じゃなかったり。

 せめて、せめて、隣の箱だけでも開けて欲しい。ソレはその中身が気になって仕方がないのだ。

 箱の中身はなんだろな。

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case 林きつね @kitanaimtona

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