質問箱のお仕事

蔵樹紗和

第1話

 ある日、衣類を作る企業の企画で街ゆく人々にアンケートが行われた。


内容は、商品の使用経験があるか、それを踏まえ新たに二つの質問を投げかけるというもの。


ここまでは普通のアンケートに見えるが、ここから先のアンケート方法が独特だ。


喋る箱を町中に設置し、その箱で質問をする。街の人々には箱に話しかけてもらう形でアンケートをとるのだ。


今回はその様子を少し覗いていこうと思う。



 箱を設置してから数分後。早速箱の前に人がやってきた。


「何かしら? この箱。誰かの落とし物?」


やってきたのは20代後半の女性。不思議そうに箱を眺めている。


カブシキガイシャ株式会社アイリス ノ アンケート デス.シツモン《質問》 イチ  アイリス ノ ショウヒン《商品》  ヲ ゴシヨウ《ご使用》 ニ ナッタ コトハ アリマスカ?」


いきなり喋りだした箱に女性はかなり驚いたようで。


「え、えぇ!? な、何!?」


慌てふためく女性。しかし、周りを見ても誰もいない。あるのは目の前の箱だけだ。


シツモン質問 ニ オコタエ《お答え》 クダサイ』


「えーっと、質問に答えれば良いのね? アイリスの商品を使用したことはありません」


女性が答えると質問箱からカチッという機械音が鳴り、次の質問に移行する。


『ソレハ ナゼ デスカ?』


「なぜですか!? う〜ん、あまり有名ではないから……?」


理由など特に考えたことの無かった女性は、答えに困ったようで曖昧な答えを箱に返す。


それを踏まえ、最後の質問。


『ソレデハ サイゴ《最後》 ノ シツモン《質問》 デス. ドンナ ショウヒン《商品》 ガ アレバ コウニュウ《購入》 シマスカ?』


「どんな商品……? 使い勝手の良いバックがあったら欲しいです」


女性は最後に微笑みながら答える。


質問箱は女性の答えを記録すると、最後にこう伝えた。


『アリガトウ ゴザイマシタ. コンゴ《今後》 モ ショウヒン《商品》 ノ カイゼン《改善》 ニ ツトメテ《努めて》 マイリマス』


こうして質問箱は最初の仕事を終え、他の人々に質問を続けたのだった。

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質問箱のお仕事 蔵樹紗和 @kuraki_sawa

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