何をするにも全くダメな箱【KAC2024第三回:箱】

青月 巓(あおつき てん)

何をするにも全くダメな箱

「で、この箱がそうだって言うのか」

「そう、何をするにも全くダメな箱。何かを入れようとするとちょっとだけ外周が小さくなるし、無理やり詰めてもどっかが飛び出る。そういう箱」

 男が目の前に置いた箱は五十センチ四方の立方体の箱だった。上面の蓋を開ければ中に何か物を入れることもできるものだ。

「でも限度があるだろ。たとえば俺が今してるこの指輪とか、この程度ならサイズが変わっても入るだろ」

「それがさ、そうじゃないんだよ。それ、安物?」

「ん? あぁ、三百円で買ったやつ」

「壊れて大丈夫?」

「いいよ。ただのおもちゃだし」

「じゃあちょっと貸して」

 男は話していた男から指輪を受け取ると、箱の中に入れた。箱は変形することはなく大きさを保っている。

「なんだ、小さくなるんじゃねぇの?」

「いや、小さすぎるものとかはむしろここからなんだ」

 箱はなんの変化もない。指輪を一つ入れただけのただの箱だ。

「またなんか騙されたんじゃねぇの?」

 男が箱を振ると、大きいが故に手応えは少ないがカラカラと中で指輪が側面にぶつかる音がする。

「あ……」

 もう片方の男はそれを見て、やってしまったといった表情を浮かべた。

「なんだよ。中だってほら、何も……うわ、マジかよ」

「そうなんだよ。これ、小さいものを入れるとなんでも壊すんだよ」

 蓋を開いて中を覗くと、壁にぶつかって指輪は粉々になっていた。

「ゴミ袋とってきてくれ。もうこれ捨てるわ」

「了解」

 男はゴミ袋を取りに部屋から出ていった。

「それにしてもなんというか、本当にダメな箱だなぁ。椅子くらいにしか使い道ないんじゃねぇの?」

 男がそう言いながら試しに箱の上に座ってみた。

 その瞬間、箱はバキ、と音を立てて潰れ、壊れてしまった。

「あ、壊した」

 ゴミ袋を持って帰ってきた男がそれを見て呟く。

「これ、椅子にもならねぇのかよ!」

「だから言ったじゃん。全くダメな箱だって」

 二人は壊れた箱をゴミ袋に詰めながら、愚痴を吐いていた。

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