海の五感

野花 智

第1話 私も好きなこの海

 私はこの海が好き。


 さらりと手から零れ落ちる、白い砂。

 日が沈み、日が昇り、其のたび光る、永遠と続く青い景色。

 風に運ばれて、流れてくる、少ししょっぱい磯の匂い。

 初めて舐めた時、びっくりするほど塩辛くて、顔をしかめた海の味。

 どこか落ち着いて、海の底に引きずり込まれるような、静かな波の音。

 どれもが美しく、儚く、鮮明に脳裏に刻まれている。


 此処だけ聞いたら、どの海もそうだろ……なんて言われるかもしれない、確かにそう。でも、どこの海とも違う、特別な何かを感じるの。変な話でしょ? 分かっている、けど違う。別の何か、ほら、デジャヴ? 懐かしさ? っていうのかな? なにかもどかしい。どことなく、そう感じる。そんな筈はないのだけどね。だって、この海に来るのはここ一年で初めてだもの。あの子に会ったので初めて。

 

あの子もこの海が好きなの。きっとそう。だって、いつもここにいるんだよ? 歳は同じくらいかな。放課後いつもここに来るのに、いつもいるの。私は美術部に入っていて、少し遅くなるとはいえ、いつも。美術部と言っても、出入り自由のいつでも帰れる自由な部活ではあるけれど……。でも私は、帰宅時間ギリギリまで残って絵を描いてる日が多いから、家に着くのは5時とかになる。だから、そんな時間に海にいる人なんて、滅多に見ないし聞かない。何か複雑な事情があるのだと、勝手に解釈してしまっているほど……。

 

そんなあの子からも、この海で感じる懐かしさが漂っている。どこで会ったような気がするけど……。

 

――何度思い出そうとしても駄目、勘違いだと思う。そう、君と会うのは、この海でだけだもの。この海から感じる懐かしさが、君にも染みついたんじゃないかな、よく海水をかけあうもんね。

 

そんなこと、たまにふと思うくらい、些細なこと。気にはなるけど、そんなの潮風と一緒になびいて消える。あの子との日々は、とても楽しくて、あの子といる時間だけは、早く流れてしまうような気がする。でもいいの。それ以上に、私はあの子との時間に満足しているから。

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