③ 箸休め
チョッパッ… フルル… ぢゅぉぞぞぞぞぞ〜… はふ、はう、フす〜 フす〜
サッ…スカリッ じょぽっ…
何故だか中性的、というより何方とも本当にわからない雰囲気をした 長い黒髪の美しい女が蕎麦を食う
その目は赤い
麺を汁から持ち上げ、何故か行う助走をつけるような上下の動きをやはり行う
勢いよく啜るが、口の容量がある程度圧迫されれば麺は啜れず
かと言って噛み切るわけでなく箸で残りを送り込み
一息
その後(のち) まだ硬い、しかし中央に汁が溜まり脆くなった掻き揚げを 片側持ち上げ頬張る
すかさず こちらは既に汁で崩れ出したコロッケの一欠を開いた口の隙間に啜り込む
ようやく噛む
あまり上品な食べ方とは言えない
かと言って、乗り換え待ちの男達の忙しなさも無い
だが不快感はない
潔くあるのだ
作法でなく、 美味さと速さへの追求
立喰蕎麦ならではの寛容さか
それともかけ蕎麦それ自体の持つものか
須く、文化である
「いいー食いっぷりなもんだねぇ〜」
実際この一言で片付けられる事でもある
「………」 チャッチャッ… スッ、
もう一人の女が感想を言われながらほとんど無視で食べる女を見ているのを見ながら店主が麺の湯を切る
もう一杯欲しいのか と湯切りを傾け女に見せるが会釈され要らないのだと判断して下げる
全て無言である
「あっ、オッチャン コロッケ追加で」
「…あいよ」
ちゃシュぽん…
「ミーちゃんどうする?」
良い食いっぷりのミーちゃんと呼ばれた女は
連れの女 サヨくんを待つ意味合いを込めて、
「うぅん、 じゃあ私もコロッケお願いします」
「……あいよ」
トポッ、シュウ〜
「ふふんっ」 「…?」
サヨくんのより静かに入れられたコロッケを見て嬉しくなるが連れの前、 大っぴらに言うものでない
サじゅり…
「……ふ〜ん… フッ」
ミーちゃんは一口コロッケを齧った時 ある考えが浮かび、納得する その後また納得する
興味がなさそうに息をつき、小さく笑った
偏向した 見落とした思考のため論破は容易い
が
これ自体ただ一瞬の思いつき
議論はないのだ
ラーメン屋、蕎麦屋 これはある意味でファストフードと考えた場合
食後すぐに退店する、しなければならない
欧米式の店の食事中、食後長くお喋りするという差
これは何処に現れるか
ここでは前者は仮に、日本風(ファストフード)と呼ぶこととする
食事中、食後の場では独特な開放的な会話の場が成り立つ
しかし日本風の店ではそれが行えない
行える場所が 男性で言えば飲み屋(屋台系ラーメンもここに含める) 女性では家での食事会であると言える
日本文化である
そこに現れたのが欧米風店 ハンバーガーやファミレスである
戦後思想啓蒙的陰謀論から、 と言うより事実としてアメリカの行った思考操作
コンビニやファストフード店等 欧米文化輸出
急速な普及を目指す中で、安価なファストフード店に女性が求めた要素を盛り込んだのは偶然ではないはずである
つまり違いがあるのでなく
始まりから違う物が置かれただけなのではないか
そう思いついたのだ
……前述の通り論破は容易い そもそも麺屋をファストフードと捉えること自体どうなのか
一瞬の思考遊びと納得したのだ
そして、すぐに思いつきそうな反例がわからず自分の趣味の右翼思想に結びつけようとした浅はかさ、その視点からしか観察できなかった頑なさに納得した
見たい情報だけ見たのだ
だからミーちゃんは興味なく息をついた
では何故笑ったか
この無茶なアイデア 以外に、 あくまで一つの要素にすぎなくとも本当にあったのでは
と思わせてくれるものだったからである
そして、そう考ようとすることこそ頑なさであり、良いものばかり見る 特に電脳持ちの自分達の世代には顕著な特徴
わかっていてもやってしまっていることに笑ったのだ
ミーちゃんは歴史派右翼主義である ピンポイントな懐古主義者とも言い換えられる
更に言えば、あの頃の学生運動に憧れを見る若者である
コロッケを完食 長居はできない
キッちゃっ…
サッぱらっ
箸を置き、代金を払い退店する
サヨくんも合図もなく同じようにする
これも日本的精神文化の行動と言えるか
考えに耽る前に一言
「ご馳走さん オッチャン」「あっ、 美味しかったですぅ 」
これを忘れない これこそが日本的精神文化の行動
その根源に最も近い物の一つである
やはり精神性文化は思考しない所にこそ、
純粋に見る
サ、サ、サ、… …トッ サ、サ、… …トッン
「……ふーん」
歩きつつ一瞬リズムをずらし聞く
付けられている
何故、誰かはわからぬが少なくとも狙いはサヨくん
ファサァ〜… クイッ、クイッ…
コートを動かし、わざと武器を見せ注意を引き路地を指差し合図する
街中で護衛付きを狙う
隠密の敵には出来ないことである
この行動により護衛になり 次の手を塞ぐ
「ねっ、 ちょっと仕事の用事あるみたいで… ごめん すぐ戻るから」
「、 仕事ぉ? ……あぁ 確かにビル、多いわよね それにしても、やっぱりミーちゃんの仕事も感心しないなあ」
「いつもごめん でも街の治安って言い訳、使うわ」
「いいよいいよ …もぅ、それはズルいんだから でも、」
「「自分の女守ることに繋がるって信じてるんだ」」
「でしょ? 行ってらっしゃい そこの列並んでるね…!」
「ああ…!」
弱い笑顔で顔を向け、無表情で前を向く
『邪魔したね でもねお兄さん 人の彼女狙うのは、趣味悪い、ね…』
この距離になると電脳の表層部を介して会話が成り立つ
互いに互いを攻撃しつつ、防壁を回避する
つまり電脳戦中に会話し戦闘する
当然並の戦闘員には不可能であり、基本は会話すらしないが、今回は特別
挨拶
完了
カッ!チャリン ダンッ!ピピッ …シュパッ……!!
路地に飛び込みスパッド(ビームソード)を抜く
壁に手を当て反響を電脳で処理し位置を割り出す
すかさず術を行使
敵の背後をとり
ヴヴンッ……!! ビッ!
バシュウウウウウ!!!!
「かっ!?」
1秒にも満たないはずの攻撃を完全に受けられ動揺しつつ推理する
後からの攻撃をノールックで受け止める
恐らく敵はサイボーグ騎士
背中に目をつけたタイプ
「軽いぞっ!? まさ…」
敵が違和感に気づき叫ぶ
ミーちゃんの攻撃が軽い
撫でられたよう
ジャラジャラジャラジャラ、 ガチャンッ!!
ドンッ! ズバッッッ!!!
カシッ… ドビュシュッ…!
十数メートル後方から大型の何かを変形させながらの突撃
気づいた時には大型スライダー(投擲用スパッド)で胴をミーちゃんごと斬られ
ミーちゃんの持っていたスパッドを取り上げ頭部に刺される
「電脳活性低下、 目が良過ぎた ってやつよね…」
と、ミーちゃん
今巻き添えで斬られたのは所謂ドッペルゲンガー
「気配」を任意の場所に移動させ実体は気配なく動く術
しかし気配にはスパッドは持てない
どうやったか
単純である
念力でただ浮かせていただけ
だから軽いのだ
そして自身は遥か後ろへ術で移動
ドッペルゲンガーは目に仕込まれた術
自分の視界の届く範囲でないと使えない
距離は薄暗い路地でやく10メートル
そこから斬った
目が良過ぎ、 見えるものを信じ過ぎた末路である
バシャッ!
スライダーをケース状態へ戻し走る
焦る 敵を倒したが焦る
あの敵が最後に前についている方の目で何を見ていたかが気にかかるのだ
向こうには、サヨくんがいる
そもそもミーちゃんは最初から冷静ではない
サヨくんを待たせるあまり先走ったのだ
他に敵がいるかもしれない
そう考えられなかったのだ
「……はっ!」
クソオオ!! ヤツガヤラレテ… オオオオオ!!!!!
男の怒鳴り声が聞こえる
あの動揺の仕方
恐らく先ほどの相方と電脳をリンクしていた
つまり死ぬ瞬間を体験したのだ
データであるから客観的である
何もわからず死んだ相方より鮮明に死んだのだ
耐えられるものではない
ダバタタタタタタタタタ!!!!!!!
ビチッ! ズバッ! グジュッ、パンッ! ドボオッ ゴリュッ ブシュッ キンッ! バキッ!
ボボッ! バジュン!
サヨくんを含めたクレープ屋に並ぶ十数名がサブマシンガンで薙ぎ倒される
強装弾か何かを使ったようで 被弾箇所は大きく破損し
素人目にもどうしようもないとわかる
自分たちの頭から飛び散った肉片を被れば理解できるのだ
実際全員死亡である
その後どこからか撃たれ死亡
と、敵(彼と呼ぶ)の電脳は認識した
「……ふぅ 電脳活性は一旦低下 後は警官配置してっと……」
ミーちゃんの電脳スキルを持ってすれば
この近距離なら臨死体験ウイルスを送り込むことも可能
その場に合った臨死体験を本人の感覚に合わせて実行してくれる優れものである
2度も死亡した彼は銃をクレープ屋の列に向けたまま立ち尽くす
ここで彼を始末しないのはサヨくんに見られないためである
まわりくどいやり方が
必要なのだ
当然通行人たちは警察へ通報は済ませてある
警官もほぼ到着している
しかし 警察は彼が銃を持っていてもご丁寧に威嚇射撃からの本射撃
もしかしたら本射撃でも生け捕りを狙うかもしれない
恐らくサイボーグである彼は簡単には止まらない
下手な刺激をし 動き出した彼が何をするかわからない
警察に撃ち殺させる必要がある
少なくとも頭部、首、胸部周辺 それも数発は撃ち込む必要がある
一般の警官に出来るのか 加えて撃つ方向によっては最悪周辺へも被害を出す
あまり広くない歩道であるここでは、既に通行人は逃げ出し、昼時で人がごった返し渋滞している
じきにパニックになる
逃げることもできない
であれば少々の荒事も覚悟しなければならない
FIFIFIFIFIFIFI!!!!!!
「け、警察だっ……!! 銃を置いて投降しろおっ!!
オイっ! 聞いているかあ!!!」
警察がフライヤー(一人乗り空中バイク)で到着
スピーカーで勧告するも失神している彼には意味がない
こちらも焦っている警官がいよいよ威嚇射撃を始める
「撃つぞお……!!」
パカーーーンッ……!!
「今か…!」
ビシッ! 彼の電脳をハックする
「んガッ!? フッ! はふっう…!? ふんう…! は、はあああああああああ!!!!!!」
ダバタタタターーーン!! グシャッ…! グルゥッ
突然興奮しだし
叫びながら数発撃つ
強装弾をふらつきながら撃ったため手首が曲がり銃口が彼自身に向く
「ぬっ!…… チィっ!! 射撃する…!!」
警官は少し悩む
しかし 日本の警察はまだ捨てたものではない
狙いをつける
……たが先ほどの懸念は警官にもあるのだ
よく狙うため一瞬固まる
その時
ダバタタタタタターーーーン!!!
ドチッ! ビュドトトト…! カラカラカラカラカラカラカラカラ……
彼はまたも撃つ
当然ながら全弾自分に当たり倒れ込む
「……っ!!」
ブチッ!
彼に弾が当たるすんでのところでハックを解く
ミーちゃん自身へのフィードバックを防いだのだ
しかし迂闊である
「…… はぅあっ!? がああああああ!!!!」
思いの外丈夫なサイボーグ
まだ動くうえ無事な左腕には内蔵式の銃がある
カタカタカタ… バシャッ!
展開する
もうこうなってはどうすることもできない
ミーちゃんが急いでスライダーを展開し投げようとするが
いくら騎士でも間に合うわけもない
パカッ!ババババ…!! ビシッ!ビシッビシッビシッビシッ
ボフンッ……!!
武器腕に銃弾を5発
小爆発
武器腕のみで大した損傷もない
銃を構える警官
覚悟ガンギマリの面立ち
これなら大丈夫であろう
やはり日本の警察官は まだ捨てたものではないらしい
しかし、ミーちゃんがさらに迂闊だった
サヨくんがたんちゃって人権団体の会員だったことを忘れていた
ちょっとした宗教団体よりタチの悪いそれらの思考
テロ防止 それも現行犯であってもこの国で警察が銃を使うことは許せないらしい
平和ボケなどと甘いことは言えない
単に"ボケ"である
だが仮に警官が臆して来なかったり威嚇射撃すらせず被害が出た場合
当然批判する
ならばどうするか
当然撃たなければ批判しようにも最悪死ぬ その後似たような奴らが出てきて結局警察批判につながる
撃って解決しても 助けてもらったやつ含め また余計なやつ付きで批判
実際サヨくんがヤリ込みに行こうとするのをなんとか宥めている
前者は警官も死ねば誰を叩けば良いかわからず全体へ広がる
後者は警官の覚悟が必要である
どちらにしても警察
助ける側の警察にだけ
理不尽である
少なとも 助けた人達からだけでも賞賛が贈られるべきである
しかし現状なのだ
だがこの警官 前述のように覚悟が決まりきっている
何をすべきかわかっている
聞くべきもの 聞かざるべきでないものの分別がつく
だから撃てた
だから助けることができた
だから何度も言う
日本の警官は 捨てたものではない
後書き
今回は題名の通り箸休め
食事は今度の回に回します
やはり戦闘シーンはどこかに入れないと気が済まないタチなんですねこれが
では、次回またお会いしましょう
性的倒錯 蕎麦編 粗製フィーチャー @morinosu
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