迷宮の宝箱

ムネミツ

迷宮の宝箱

 「ここが迷宮の入り口か、緊張するな」


 俺は目の前の石造りの神殿を見て緊張した。


 昼間の晴れ空の下、昼寝したい所だがこれから仕事に行かねばならない。


 「ヘイヘイ少年♪ そんな固まってたら、どうしようもないぜ♪」

 「ぎゃはっはは! ちょ、パックさん脇は!」


 俺より小柄な小人族の青年。


 茶髪の坊主頭に黒目で童顔な盗賊のパックさんが、背後から俺の脇をくすぐる。


 「やれやれ、前衛たるもの緊張のし過ぎはいかんぞトモハル?」


 俺の前にいたパックさんと俺の中間位の身長の銀の鎧の騎士が振り返り呟く。


 兜の面当てを上げてぎょろ目を見せる騎士の名は、タンク。


 ドワーフの騎士で、家のパーティーのリーダーだ。


 「そうですよ、私達はここからが始まりです♪」


 俺の隣で微笑みかけて来たのは金髪でおかっぱ頭の美少女。


 こちらは白い神官服の上に、赤い太陽が描かれた青い鎧を着た美少女。


 彼女の名前はポッカ。


 太陽教の神官戦士で、武器はメイスと盾とリーダー並の武装だ。


 「う~~~、私も初めてだから緊張するよ」


 俺よりも不安がるのは、パーティー内のもう一人の美少女。


 尖った耳に金髪、緑の眼で整った顔立ち。


 髪を頭頂部で団子に纏めたエルフ。


 彼女の名はメアリ、青いローブに木の杖と魔法使いだ。


 「まったく、ひよっこ三人とお調子者の世話はこたえそうだわい」

 「まあまあ、地下三階まで行って宝探しって軽いもんさ♪」


 タンクの呆れ声とパックさんの笑い声を聞きながら、俺達は進んだ。


 最後に俺の名はトモハル、侍って剣士の一種だ。


 装備は着物の上に赤い胴鎧、武器は刀と手斧。


 短い黒髪に黄色っぽい東国人の肌、年は十五。


 仲間と共に迷宮探索に初挑戦中だ。


 周りを見回しながら、石造りの通路を歩く。


 「トモハルさん、この地上入り口は安全ですよ?」

 「ちょ、びびってないよ!」

 「トモハル、私もビビってるから!」

 「いや、メアリも大丈夫だからな?」


 ポッカとメアリに心配される。


 俺はビビりじゃない、慎重なだけだ。


 「ヒューマンは大変じゃのう?」

 「こっちは、あいつら見てて面白いぜ♪」


 リーダーには呆れられ、パックさんには笑われる。


 くそ、しっかりしないと。


 地下に通じる階段を下りれば、いよいよ探索の本番だ。


 「トモハル、前はワシがやるから後ろの明かりを頼む」

 「はい、鬼火よ灯れ!」


 リーダーの指示で俺は虚空に青白い鬼火を生み出し明かりをつける。


 謎の力でこの地下に壁に明かりが灯ってはいる。


 だが、それだけじゃ探索の為には明度は足りない。


 前と後ろ両方に照明は必要だ。


 リーダーは兜から魔法の明かりを灯してる。


 メアリはエルフなので暗視持ちだ。


 「東国の魔法って不思議ね?」

 「ですね、色んな国の方がおられますが」

 「俺は母親から教わっただけだから」


 メアリとポッカが不思議がるが、それはこっちも同じだ。


 両親はどっちも東国人だが、移民なので俺は東国を知らない。


 「石造りの壁ってのは、神殿の類の迷宮は同じだねえ♪」

 「ふ、石は土に埋もれても頑丈じゃからの♪」

 「さっすが、石工の騎士♪」


 リーダーの言葉にそう言う物かと頷く。


 「はい皆ストップ♪ そろそろ敵が出るよ♪」


 パックさんが俺達を止める、耳の良いこの人のタイミングは間違いない。


 俺は前に出てリーダーと並び前衛に出る、パックさんは俺と入れ替わりで後衛に移動。


 ガタガタと音を鳴らして現れたのは、槍や剣で武装した人間のスケルトンだ。


 「スケルトンか、なら鬼火飛ばし斬りを喰らえ!」


 俺は刀に青い炎を纏わせて横薙ぎに振るう。


 鬼火が飛んで行き、スケルトンの群れを一気に炎が包み焼き払った。


 「ヒャッハ~♪ 流石侍、とばすねえ♪」

 「トモハル、腕はあるのだからビビりを直さんとな」

 「トモハル、戦闘になると元気よね?」

 「お疲れ様です、トモハルさん♪」


 俺の戦闘での仲間達からの評価は、おおむね好意的だった。


 目の前に出て来た敵なら恐くない、戦えば良いだけだから。


 パックさんを先頭に、目視や聞き耳似て壁や床の手触りで罠を調べつつ進む。


 地下一階には目ぼしい宝や敵はなく、無事に地下二階へ降りられた。


 罠を調べながら進み、次に出てきた敵は空飛ぶ燃える髑髏のゴースト。


 「出ましたね、幽霊ならお任せを♪ ホーリーシャワー♪」


 神官戦士のポッカが叫ぶと、彼女の体から無数の白い光の針が飛びゴースト達を木っ端みじんに粉砕して行った。


 「ポッカ、笑顔で殲滅とか容赦ないわね?」


 メアリがドン引きする。


 「すみません、宗派の教えでアンデッドは手加減できないんです♪」

 「信仰とは時に恐ろしき者じゃな」


 ポッカの笑顔にリーダーも引いていた。


 「まあ、良いんじゃね♪ 俺達が死ななきゃ♪」


 パックさんは気楽だった。


 「トモハルさんも太陽教に入信しませんか♪」


 ポッカが笑顔でこっちに入信を勧めて来る。


 「保険あって、お布施が高くなければで?」

 「では、帰ったら寺院へご案内しますね♪ ゲッシュ♪」

 「ちょ、ゲッシュとかいるの?」

 「すみません、信者の勧誘ノルマがあるんです♪」

 「いや、ひどくない?」

 「ちなみに、私がこの冒険中に死亡するとトモハルさんも道連れですから♪」


 ポッカが俺に近づき、俺の額に魔法の光で丸印を刻みつつとんでもない事を言う。


 この魔法、約束破ったら死ぬ奴じゃん! 道連れかよ!


 「こっわ、太陽教こっわ! 私、精霊教で良かった」


 メアリが引く。


 「まあ、冒険者たる者なら宗教保険は入っておった方が良いぞ?」


 リーダー、止めてくれよ。


 「トモハル、諦めな♪」


 パックさん、慰めになってねえ!


 地下二階を越えて目的地の地下三階へと到達した俺達。


 俺はポッカを守りながら、ゾンビドッグやらバンシーやらのアンデッドを仲間と倒して行く。


 「着いたぞ、ここが今回のゴールじゃ」


 大きな木の扉の前に立つ俺達、リーダーが扉を蹴りで開けると広大な広間だった。


 部屋の中央に石で囲まれた複雑な模様の魔法陣が見える。


 「うげ、皆気を付けて! あの魔法陣は、ヤバい魔物が出てくる奴!」


 メアリが魔法陣を解析したと同時に陣が光り、青肌に一つ目の巨人が現れた。


 「うへえ、サイクロプスか?」

 「ふん、パックは下がっとれ! おら、こっちじゃ!」


 リーダーがサイクロプスを挑発する。


 これで、サイクロプスはリーダーしか狙わない。


 敵の目と目からのビーム攻撃が、リーダーに向かった所で俺とポッカが両脇から攻める。


 「鬼火斬り!」

 「ホーリースマッシュ!」


 俺の炎の斬撃と、ポッカの光の打撃が交差し大打撃を与える。


 「今だメアリ、トモハルを動かせ!」

 「わかった、トモハル動いてネクストアクション!」


 パックさんの指示で、メアリが魔法の光を俺に飛ばす。


 サイクロプスは攻撃した俺達に目もくれず、リーダーを狙いビームを撃ち続ける。


 「ふん、何発喰らっても傷つかんわ!」


 リーダーは鎧と盾で、ひたすらに敵の攻撃を受けきっていた。


 「お、動ける! もう一回の鬼火斬りだ!」


 俺は敵の背後からジャンプし、燃える刀を大上段で振り下ろす。


 サイクロプスは一刀両断にされて絶命した。


 戦闘が終われば、何故か敵の死体が無数の宝箱に変化する。


 「よっし、戦闘終了のリザルトタイムだ♪」

 「「お~~~っ♪」」


 俺達は出て来た茶色い木の宝箱や赤い金属の宝箱を開けて行く。


 「うへ、私のは古びた巻物だった」


 メアリが手に入れたのは古い紙の巻物。


 「私は、魔法の品っぽい羽ペンですね?」


 ポッカは、金の羽ペン。


 「よっしゃ、大量の金貨だ♪ 後で等分するぜ♪」


 パックさんは現金。


 「ふむ、ワシは銀のサバトンか」


 リーダーは、金属の靴。


 「俺は、赤い卵?」


 俺が空けた宝箱に入っていたのは、赤ん坊位の大きさの卵だった。


 卵が割れて、火の鳥が飛び出し俺の肩に止まった。


 「まあ、テイムモンスターですね♪ おめでとうございます♪」


 ポッカが笑顔で祝う。


 「うっそ、トモハルのそれフェニックスよ!」


 メアリが顎をがくんと開けて叫ぶ。


 「テイマーのサブクラスゲットだな、トモハル♪」


 パックさんが笑いながら語る。


 「ふむ、これで洞窟の明かりなどは不便が無くなったの♪」


 リーダーは明かり代が節約できたと喜んだ。


 こうして、俺の初の迷宮探索は大成功で終わった。


 ここから俺の伝説が始まるのだが、この時はまだ自覚はなかった。


                       迷宮の宝箱・完

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