「箱」入り娘
空山羊
死神と勇者
私の名前は
私は物心がついた頃からこの「箱」から出たことがない。
コレが私の日常だ。
だから、私はコレが不幸だとは思っていない。
私が1人かって?監禁されてるのかって?
そんなことはない。ここには大勢の人がいる。皆、良い人ばかりだ。
この「箱」から出たことがないって意味では、ある意味、軟禁状態なのかもしれないけどwww
パパとママもいる。
パパは仕事が忙しくて私が起きている時には帰ってこれないことが多い。
それでも、なるべく早く帰ってこようとしてくれてるし、実際に早く帰ってきてくれた時は、沢山の愛情を私にくれる。
ママは私の側にずっといてくれる。
とっても優しい自慢のママだ。「愛してる」って毎日何回も何回も抱きしめて言ってくれる自慢のママだ。
でも、怒ると鬼も逃げ出しちゃうくらい怖い。
ママをそんな状態にしてしまったのは何年か前の出来事一回こっきりだ。
当時、私はこの「箱」の中での生活に飽き飽きしていたし人生にも絶望していた。
いつものルーティンをただ淡々とこなして命を少しずつ削っていく毎日。
そんな時に暇つぶしで見ていたインターネットの中で出逢ってしまった、ロシアンブルーという種類の猫。
毛艶も良く素敵な目の色。「こんな猫を飼ってみたい」とママに伝えたらママは烈火の如く怒り、そして、泣いた。
「あぁ~私は猫を飼うことすら望んじゃいけないんだぁ」って心の中で思った日。
何よりも、ママを怒らせたことよりもママを泣かせてしまったことに、途轍もなく罪悪感を覚えた。
そういえば、この頃、パパとママはよく泣いていたし、よくケンカをしていたな。
あれも私のせいだったな。
そして、今、目の前でママとパパが泣きながら私にこう言った。
「希、今までよく頑張ったね。希が欲しいって言ってた猫を飼おうか。」
私は嬉しくて「うん♪」って答えたんだ。
そうして、それから2週間後に私は人生で初めて、この「箱」から出たんだ。
私の人生正直絶望しかなかった。
いや、『私の』じゃなかったね。
『私たちの』だったね。
パパとママの方が絶望してたと思う。
パパとママが愛し合って産まれた私が、数億人に1人の割合で発生する『Grim Reaper's Scythe』という難病だったなんて。
この難病は『死神の鎌』なんて言われていて、少しずつ少しずつ弱っていって年齢が15歳になる頃には死神が来て命を刈り取ってしまう、そんな病気だ。
パパとママは私が産まれた直後に絶望したと思う。
でもね、パパとママは諦めなかったんだ。
だから、私がいつか必ずこの病気に打ち勝つって願いを込めて、『希望』から『
パパは仕事を何件も掛け持ちして、一所懸命に働いて私の莫大な治療費を捻出してくれていた。
ママはいつだって私が不安にならないように側にいてくれたし、いつも笑ってくれていた。
でも、私が寝ると、いつもケンカをしていたし、いつも泣いていた。
でもね。でもね。あの日、偉いお医者さんが来て私たちに言ったんだ。
「AI技術が進歩したおかげで、医療に革命が進化が起きました。現状維持すら難しく、ただただ死を待つしかなかった娘さんの病気を治せるかもしれません。もし治れば世界初の快挙です。これから行う世界初の治療には莫大なお金がかかります。到底一個人が払えるような額ではありません。ですが、心配いりません。私たち病院と製薬会社、AIを産み出した企業と国が全て負担します。だから、お金の心配はせず安心して治療を受けてください。」
そうして私の病気は完治した。
お医者様は世界的に凄いナンタラ賞を受賞していたし、医療特化AI
ちなみに医療特化AI
だから、お医者さんこの治療法言うとき凄く恥ずかしそうだった。
ちなみにちなみに、『病気=悪、治療=勇者一行』という図式があるらしく、他の病気の治療法ももれなく似たような『聖女の祈り』とか『鉄壁の守護』とか『戦士の鉄槌』とそんな名前がついてるらしい。
そして、私は一躍時の人になりマスコミにしばらくの間、さらされるのだが、それはまた別のお話である。
そうやって家族やお医者さんたちと絶望でしかない難病『Grim Reaper's Scythe』という病を克服し、この15年の人生で初めて我が家に帰った。
なんなら、この15年の人生での我が家は、あの「箱」の中だったんだろうな。
病院という「箱」は、私と私の家族にとっては『死神の鎌』っていう絶望しかない場所だったけれど、「箱」の中から砂粒のような『希望』を掴み取れたことが今となったんだと思う。
ガチャリ
ドアを開けると、ロシアンブルーが出迎えてくれた。
「パパ!ママ!!ありがとう!私いっぱい可愛がるしお世話もするね!」
「「いいんだよ。希が生きることを諦めなかったご褒美だよ。お帰り希。」」
「この子のお名前は『
「箱」入り娘 空山羊 @zannyou
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