第7話 同じ箱

 いらっしゃいませ。箱屋へようこそ。

 当店では大きなものは上半身が入るものから、小さいものなら小指の先ほどまで、大小さまざまな箱を取りそろえております。

 ……ってお客様、何やら箱をお持ちですね。それにずいぶんと焦ってらっしゃるようにお見受けしますが。

 まぁまずは落ち着いてください。当店の箱は一くせも二癖もあるものばかりですが、さすがに足が生えて逃げたりはしませんので。


 はい?箱ならどんな物でもあるのかと?

 そうですね、例えばお客様がお持ちのような箱は珍しいかもしれません。そちらは何かの映画のブルーレイボックスのようですが、そのような箱が空になってうちへ来る例は珍しいです。一体どのようなご事情でお持ちに?ずいぶんと傷だらけのようですが。

 おやまぁ、飼い猫が爪とぎをしてしまったと。それはそれは、よほど魅力的みりょくてきだったのでしょうね。

 ああすみません、あまりにズタズタなものですから、つい。


 ふむふむ、こちらはご友人に貸していただいたものだと。それもなかなか貸したがらない方に、無理を言ってお願いしたものだと。それは確かに、そのままは返しにくいですね。

 えっ、これと同じ箱がないか、と?

 失礼ですが、同じものを買ってお詫びするわけにはいかないのですか?

 ふむ、限定生産品でしかも古いもの、ゆえに新品はもう手に入らない、と。中古で買った場合、箱に傷みなどがある場合が多いと。うーん、それでは確かに弁償べんしょうは難しいですね。


 しかし当店で同じ箱をというのは、さらに難しいですよ。

 ええそうです。当店にある箱は、どこかで長年使われてきた古いものがほとんどなのです。しかも癖の強い箱ばかりですから、お客様が使われるのならともかく、ご友人に差し上げるのには向いておりませんよ。

 えっ、あそこに見える箱はこれと同じものじゃないかって?

 いえお客様、あれは確かに同じ箱なんですがね……なんと申しましょうか、他人様に差し上げるには本当に向かない箱でして。

 まぁそう焦らずに、お持ちしますのでよくごらんになってください。


 ……どうですか?

 そうなんです、外側は新品のように綺麗きれいなんですが、中はご覧の通りシミだらけで。

 実はこの箱は、元の持ち主がちょうどいい大きさだからと、ハムスターの巣に使わせていた箱なんです。

 ええ、そのシミはおしっこなんだそうです。うちに来た時はわらとティッシュがたっぷり詰まっていて、それは哀れな状態だったんですよ。命からがら逃げだして、うちに駆け込んできたんです。

 ですのでもうブルーレイ以外の物を詰められるのはごめんだと言っているんですが、この有り様ですから買い手がつかなくて。


 えっ、この箱を買っていくと?

 お客様、およしになった方がいいですよ。ご友人には素直に謝った方が傷は浅くて済むと思いますよ。気づかないうちはいいですが、見つかった時にはお叱りくらいでは済まないのでは……。

 えっ?ご友人もハムスターを飼ってらっしゃる?

 これがハムスターの所業しょぎょうなら苦笑いで済ませてくださると?

 そうですか、それならもう敢えてお止めしませんが。

 ただ、お客様とご友人の間に何かあっても、当店では一切責任を負いませんよ。


 では、お代はこちらになります。

 ありがとうございました。ご縁がありましたら、またの御贔屓ひいきに。

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