5,拝啓

箱が空いたものの、今回の箱の中身は空だった。

しかし、箱の奥に「SPIRITスピリット」っと、刻まれていた。


「無事、5つ目の箱を開けられたようだね?」


「はい、そちらはどうですか?」


「高さは、1メーターと90センチ。

 縦横の幅は、90センチくらい。


 当たり前だが、扉はびくともせず、

 メカメカしい箇所をはぶくと、

 特徴的なのは、“5つ”の四角いくぼみ」


「四角い窪み?」


「ああ、更にその窪みには、

 文字が書いてあった」


そう言うと、彼は携帯電話でメモした内容を、

私に見せてくれた。


前方に1つ「神」

左方に2つ「魂」「精」

右方に1つ「営」

後方に1つ「気」


「因みに、左方の「魂」は上の位置に、

 「精」は下の位置に配置されていた」


「これって一体?」


携帯電話のメモを凝視する隣で、

黒坂さんも何かを考えているようだったが、

悩んでいる。っと、言うより、

迷っている様子に私は見えた。


「君に2つの質問がある」


腹を決めたのか、私に問いかけてきた。

―――あれ?何かデジャブを感じる。


「1つ目は、お兄さんの職業は医療関係?」


「え?何で、それを?」


詳しい事は、私も分からないが兄さんは、

内科の研修生だった。

でも、何故今―――?


「OK。では2つ目は、

 今までの箱は此処にある?」


「は、はい。一様、鞄に全て」


鞄の中を和樹さんに見えるように、

鞄を持ち上げた。


「OK、なら分かった」


「え、もう?」


「知りたい?」


「ヒントを下さい」


「いいよ。ヒントは、“五臓六腑ごぞうろっぷ”」


「あの“五臓六腑に、染み渡る~”の?」


「自分が言うのもあれだが、君。

 本当に平成生まれ?」


私は、顔を紅くして口を膨らませると、

慌てて謝罪する和樹さん。


しかし、それでもピンっと来なかった。

五臓六腑の“五臓”っと、5つの箱に、

関係がある事は数が一緒なので、分かる。


ただ―――。


「肺、心臓、腎臓じんぞう肝臓かんぞう―――っと、

 あと一つ何だっけ?」


脾臓ひぞう


「それです!でも、それが何か?」


「その5つ蔵には、それぞれ別のモノが

 つかさどっている。


 肺なら“気”を、心臓なら“神”、

 腎臓なら“精”を、肝臓なら“魂”、

 そして、脾臓は“営み”を―――」


「あれ?神?それって―――」


私はある事に気付き、2つ目に開けた箱を、

鞄の中から取り出した。

その箱の中には「GOD」っと、刻まれていた。


全ての箱を鞄から箱を取り出し、

私は床の上で、それぞれ何が、

書かれているのかを確認する。


1つ目は、「SOUL」

2つ目は、「GOD」

3つ目は、「BUSINESS」

4つ目は、「ENERGY」

5つ目は、「SPIRIT」


それと携帯と一緒に確認すると、

以下の組み合わせとなった。


「SOUL」は、魂。

「GOD」は、神。

「BUSINESS」は、営。

「ENERGY」は、精。

「SPIRIT」は、気。


「兄は、これを1人で―――、

 一体どれだけの時間を―――」


「それは、本人にしか分からない事だが、

 何故かは、何となく―――分かる」


「何故ですか?」


床に広げた箱を見つめつつ、

呆然とその場に座り込む私に対し、

膝を曲げた姿勢だった和樹さんは、


「―――君の為さ」


っと、言って立ち上がった。


「ん――――」


私は、歯を食いしばって、

泣くのを我慢する。


「さぁ、最後の謎も解けたし、

 箱を入れよう!」


「は、はい!」


見て見ぬ振りをする和樹さんに感謝しつつ、

私も立ち上がり、最後の謎解きを開始した。


ガコガコガコガコガコガコガコ

ガコガコガコガコガコガコガコ

ガコガコガコガコガコガコガコ

ポ―――ン―――ガチャ。


5つ全ての箱を巨大な箱にはめ、

今にも壊れそうな音を響かせていたが、

最後は、いつもと同じ音で安堵した。


この音も、もう聞こえないのか―――。

少し、残念と思いつつ、私はその扉を開ける。


「え?」


巨大な箱に入っていたのは―――、


「白いジャケット?」


和樹さんが、不思議そうに呟いた。


そう、巨大な箱に入っていたのは、

私が昔、兄さんに強請ねだった服だった。


『あーあーあーマイクテストマイクテスト』


「この声って―――兄さん?」


扉が開いたからなのか、箱の何処からか

スピーカーから流れる“兄さん”の声が

流れて来た。


『親愛なる妹へ

 まずは、最後のゲームクリアおめでとう。

 

 流石さすがは、我が妹だ!っと、言いたいが、

 君が此処に到達したっという事は、

 俺は亡くなっているのだろう。

 

 あ、勘違いしないでくれよ!

 後悔ではなく、只々君の成長を

 見る事が出来ない無念さが―――ね。


 こんな発言を日常で頻繁に言うからか

 周囲にはシスコンっと、呼ばれてはいる。


 だが正直、家族や兄弟を大切にする事の

 出来ないヤツに、他人を救う仕事が

 務まるのかと思う口なので、気にしてない。


 あれ、何か脱線したゴメン。


 兎に角だ、君は何も後悔する事はない。

 俺は、自分の意志で手術を受けた。

 そのまま健やかに、生きていてほしい。


 で、餞別せんべつとして二つ用意した。

 一つは、君が強請ねだったジャケット。


 ただ、もういらないかもしれないから、

 二つ目を―――』


カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、ガチャ。


私の背後で何かが動く音が聞こえてきた。

振り返ると、5つ目の箱が置いてあった

台座から、チェーン付きの指輪が出現した。


『これは、とある方から

 譲ってもらったモノでね。

 多分、君の今後に役に立つと思う。


 それじゃあ、俺はこれで―――、

 ―――長話失礼』


私は―――、瞳を閉じて、

兄さんの声を最後まで黙って聞いていた。


でも、兄さんの話が終わっても、

私は動けないでいた。


何故ならば―――、

嬉しい気持ちと、悲しい気持ちが、

溢れかえり涙がとまらなかったからだ。


大粒の涙が頬を濡らし、

声が少し漏れる。そしたら、もうとまらない。

私は、大声で暫くの間、泣き続けるのであった。



二〇一二年四月十日 午後四時十五分

とある サークル室―――。



「初めまして、久遠くおん のぞみと言います。

 学部学科は、人間学部スポーツ健康学科。

 得意な事は、お菓子作り。

 

 将来は、健康を第一とした何かの仕事に

 つこうと思っています。

 今後とも、よろしくお願いいたします!」


拝啓、敬愛なる兄さんへ

私は、貴方のお陰で元気です!


本当は、兄さんと同じお医者さんに

成りたかったのですが、血が克服出来ず―――。

でも、他でも人の為になる事はある。


その第一歩として、私は新しいこの場所で、

信頼する仲間と一緒に、夢と希望を胸に抱き、

兄さんが言っていた。


努力をおこたらず、常に頑張って、

友達に思いやりを持って接する事が出来る。


“かっこいい大人”になりたいと思っております。

もし、なれたら、また報告いたします。 敬具

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6Ⅰ9〜6つ目の箱~ep0 笹丸一騎 @Sasamaru0619

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