4,最後の場所

二〇一〇年十一月七日 午後二時十六分

とある トラックルーム施設―――。



「お休みなのに、すみません和樹さん」


「いや、全然問題ないよ」


昨夜の一件から一夜明け、

私は和樹さんの父親が経営している

トラックルームという施設に

私は手提げ鞄を持って、此処へ訪れている。


因みに、トラックルームとは、普段あまり

使わない品々をしまっておける場所の事。


そこに何故、最初の箱を開けた人こと、

黒坂くろさか 和樹かずきさんと、

一緒にいるのかというと、

4枚目の手紙に記載された内容が、

以下の通りだったからだ。


~・~・~・~・~・~・~・~


4つ目のクイズ、どうだった?

一様、一晩考えたのだけど―――。

いや、答えは心の中にしまっておいてくれ。


さて、気を取り直して―――、

いよいよこのゲームも残りわずか、


箱は残り2つ。


次の場所に箱は2つある。

場所を知っているのは、

黒坂くろさか 董吉とうきちさん

連絡先は―――。


~・~・~・~・~・~・~・~


さて、急に出てきた知らない人物の名前。

董吉とうきちさん?名前からして、

私よりも遥かに年上と予測できる名前だった。


だけど、その人物が誰かは、昨夜の時点で

すぐに分かった。


「それにしても、和樹さんのお父さんと

 兄さんが知り合いだったなんて―――」


「確かに、すごい偶然だったよ―――」


世間とは狭いとは聞くが、あれはホントだった。

どうやって知り合ったかは、分からないが、

2人はかなり昔から交流があったらしい。


今回、和樹さん経由で、董吉とうきちさんと

連絡を取ると、二つ返事で最後の場所を

教えてくれた。更に、案内役もよこしてくれた。

それが、和樹さんなのである。


「父の話だと、そのトラックルームは、

 十年近く前から、君のお兄さんに貸したまま

 だったとか―――」


「そ、それってもしかして滞納―――」


「あぁ、『お金の事は気にしないでくれ』っと、

 父が言っていたよ。理由が理由だからとも」


「理由?」


「残念だけど、それは教えてくれなかった」


「そうですか」


「あ、丁度着いたよ」


私と和樹さんは、目的地に立ち止まる。

そこには【0619】と表記されている

一つの扉がある。

和樹さんは、その扉の鍵を開けてくれた。


「それじゃあ、自分はこれで―――」


「ま、待って下さい」


私は、すぐ去ろうとした和樹さんを思わず、

呼び止め、彼は足を止めた。


「も、もしかしたら、難しい謎で苦戦するかも、

 それに―――ちょっと不安で―――」


前者よりも後者の方が、私は心配だった。

このゲームは、今回で恐らく終わる。


それはイコール、兄との関わりもこれで最後。

果たして、私は正常のまま、その最後を迎える

事が出来るのだろうか?


「だから―――、

 最後を一緒に見届けてくれませんか?」


「いいのかい?部外者だけど?」


「お願いします!」


「分かった」


和樹さんは、こちらに歩み寄り、

「どうぞ」っと、扉を開けるよう促す。


―――ガチャ。


扉を開けると中は暗く、何も見えない。

2人共、トラックルームの中に入室してから、

和樹さんが照明のスイッチを押す。


「「―――――――」」


すると、そこには、私の腰あたりまである

仰々しい台座の上に、5つ目の箱。

そして―――。


「今までのクルーボックスも凄いと思ったが、

 君のお兄さん、やはり只者ではないね」


「―――はい、私もそう思います」


トラックルームの部屋中央に、

2メートル近くの“巨大な箱”が置いてあった。


その箱は、今まで箱とは大分異なっており、

固い貴金属や、大きなネジ、私が見た事のない

モノで構成されていた。

最早もはや、DIYの域をとっくに超えた代物だった。


「よし、自分はこの巨大な箱を、調べてみるよ。

 そちらは、5つ目の箱を―――」


「は、はい」


和樹さんの指示通り、私は台座に近付く。

貴重品を展示するような、立派なモノに、

四角い箱、あまりにも、場違い感が否めないが、

そこは今、重要ではない。


私は恐る恐る、その箱を持ち上げた。

今回は、以前とは別の意味で、

慎重に扱う必要があった。


理由は、4枚目の手紙の続き―――。


『それと、最後の箱は、“1回”しか、

 チャンスはない。

 だから、慎重に扱うように―――』


そう書かれていれば、

嫌でも慎重になってしまう。あの巨大な箱に、

一体何があるのか分からない。


けど、何か重要なモノが

入っているかもしれない。


それを些細なミスで、永遠に開かなかったら、

ここまで付き合ってくれた和樹さんにも、

ここまで用意してくれた兄さんにも、

申し訳が立たない。


何より、私自身が一生後悔するだろう。

だから、私は人生で一番、慎重に、箱を持った。

が―――。


「え?」


そこには、以下の内容が1面ごとに、

刻まれていた。


1、貴女に該当する内容を押して下さい

2、貴女の誕生日は1992年1月5日である

3、貴女のお名前は●● ●である

4、貴女の子どもの時の夢は、

  ケーキ屋さんである

5、貴女は努力を怠らず、常に頑張っている

6、貴女はお友達に思いやりを

  持って接している



「兄さんは、こんな凄いモノを作れるのに、

 質問は、小学生みたい―――小学生?」


ああ、そっか、兄さんは、私の為に、

この箱を作ってくれた。だから―――。


気を抜けば、また涙がこぼれそうになった私は、

此処に来る前に決めていた。

この件では、強い意志で、

「もう泣かない」っと―――だから―――。


―――カチ、ポーン。


私は、ゆっくりと5番を押した。

何故、5番を押したかと言うと、

今一番私が、そう思っているからじゃない。


今後の私に取って、続けないといけない。

言わばこれは、「決意表明」の意味も含め、

私は、5番を押した。


これからも兄さんの分まで、私は、生きていく。

そんな私が、怠けたり、悪い事をしたりする

時間などない。私は―――、



『兄さんのような、

 かっこいい大人になるのだから―――』



―――ガチャ

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