ブレイキング・オブ・ジ・ボックス

幼縁会

ブレイキング・オブ・ジ・ボックス

 パン丸こと全てを破壊して突き進むバッファローを食い止めるべく、自衛隊による決死の作戦は今現在に於いても進行中であった。

 住宅が、ビルが、アスファルトと舗装された道路が。

 たった一匹のバッファローによって原型すら残さず粉砕され、轍に刻まれた無数の残骸と合流を果たす。

 まさしく地獄絵図と化した惨劇を街一つ分の犠牲で収めることこそが、作戦に投入された膨大な人員の存在意義。護国の精神に異論を挟む余地はなく、故に彼らは文字通りに命を浪費する。


「三峰隊長ッ。展開していた第二部隊の壊滅を確認ッ、目標は未だ健在です!」


 風通しの劣悪な戦車の中、索敵を担っている隊員からの悲痛な報告を受け取った。

 同時に、報告の数瞬手前に起きた地響きの由来をも彼は理解する。

 第二部隊が壊滅したということは次は第三部隊──即ち三峰達の部隊が時間稼ぎを敢行することを意味した。

 全てを破壊するバッファローの前では戦車の装甲も赤のマントも等価。等しく粉砕して突き貫くだけの存在に過ぎない。

 だからこそ自衛隊は一気に最大戦力を投入するのではなく、雑多な戦力を小出しに送り込む。壊滅の報告を受けてから、矢継ぎ早に戦力を逐次投入することで少しでも街へ釘付けとするために。

 既に甚大な被害を受けている街全域を作戦区域とし、全てを破壊して突き進むバッファローの足止めを敢行。然る後に有効打となる決戦兵器を投入する。

 箱と呼ばれる作戦コードに於いて三峰達が担う役割は時間稼ぎ。


「……」


 三峰は閉じられた目蓋を開くと、双眸を昏く輝かせる。

 自衛隊は捨て駒、本命は有効打となる決戦兵器。

 現代の地上戦を支配する鋼鉄の箱たる戦車を駆っていながら、彼らは最底辺の役割しか与えられていない。如何に参加しているのが志願兵のみといえども、精神的な摩耗は免れない。

 部隊を率いる長たる男が命じるべきは、たった一つ。

 だが、それを口にするには憚られるのもまた人心。


「目標は高速で移動中ッ。このままでは三〇〇秒後に作戦区域から離脱されます!」


 悲鳴染みた報告は、自由の身となった破壊の化身が猛全と突進を再開したことを指し示し、作戦失敗の前触れとなる。

 深呼吸を一つ。

 三峰は声を荒げて、部下達へ死を命じた。


「箱庭作戦継続ッ。三峰隊出撃!」


 天を突く怒声と同時、バッファローの横腹を目指す砲弾がびっくり箱に詰められた玩具よろしく飛び出した。

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