私はVtuber

 オリ曲のイントロ。


 それは課題……いや、テストなのだろう。

 私がどのように歌うのか。歌に対してどのように向き合うのか。


 考えなくてはいけない。

 見つけなくてはいけない。


 ソレイユは切ない歌詞だと言っていた。

 切ないだろうか?


 私にはこの歌詞からは想いを伝えようと必死さを感じ取った。


 それは想いを伝えようとして言葉を紡ぐも相手に伝わらず、それを嘆き、そして悩み憤り、次に苛立ちが現れて、最後に悲しむ。


 この歌はそんな歌だ。


 言葉が……伝わらない。


 ああ。私みたいだ。


 喋れば馬鹿にされる私。ラ行を発音できるように頑張ろうとするが、なかなか上手くいかない。


 それは悩みであり、憤り。


 歌も下手だと馬鹿にされる私。

 私は苛立っていた。


 カラオケの点数システムで高得点を出したけど、見向きもされない。いや、認められない。


 私は悲しんだ。


 何が駄目だ。

 何が正しい。

 間違えのない答えは一体。


 私を認めろ。

 私に謝れ。

 私に……。


 ああ。そうだ。これは承認欲求だ。


 私は皆に認められたいのだ。


 そうだ。だからVtuberになったんだ。


 ふとスマホが鳴った。


 リリィさんからのメッセージだった。


 めずらしい。


 内容は『もうすぐ桜町メテオの誕生日でしょ? 今度は私が手伝うよ。歌でも何でも言ってね』


 そっか。もうすぐそんな時期か。


 桜町メテオ生誕祭。

 SNSで呟くとすぐにファンから返事がきた。

 私は彼らに聞く。


「私の歌、聴きたい?」


 またすぐに返事がくる。


『聴きたい』

『新曲のフラグ?』

『生誕ライブ?』

『楽しみ』


「私って、歌上手いかな?」


『上手』

『いつも励ましてもらってるよ』

『最高!』


 良かった。


 私は下手ではないんだ。

 私の歌は届いているんだ。

 私の歌を待っている人がいるんだ。


 歌おう。

 皆のために。

 そして私のために。


 霧が晴れた。

 世界が広がる。

 こんなに世界が広いのだと、私は改めて感じる。


 雲は割れ、太陽の光が私へと注ぐ。

 まるでスポットライトのように。


 私は顔に強い生気を纏う。

 目は真っ直ぐに現在いまを見つめ。

 足裏に大地を感じ、背筋は真っ直ぐ。


 息を吸い、おなかを膨らませる。そしてゆっくり息を吐く。


 私はVtuber。桜町メテオ。

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どうして富士は青いのか? 赤城ハル @akagi-haru

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