第44話それぞれの思惑
「歩きずらいな・・・。」
制服に着替え、松葉杖で神道省に続く道を歩く。
「龍穂は骨折したことなかったな。
ある程度すれば慣れてくるぞ。」
何度も転びそうになりながらも必死で定兄についていく。
「奴らの望みは龍穂が仙蔵さんに対して恨みを持っている事だ。
もう歩けるようだが、その状態で議場に入ってくれば
大けがをさせられ、恨みを持っていると感じるかもしれない。」
「そんな簡単に行くかな・・・・。」
「行かないだろうな。結局の所、龍穂の話す内容が肝心だ。
だがな、自らの野望のためなら何でもするような
奴らも会議に参加している。
龍穂が恨みを持っていないと少しでも察すれば
何をしてくるかわからない。
出来るだけ暗い顔の演技をしておいてくれ。」
三道省の高官のさらに上の地位にいる人達が。
一筋縄もいかないような人たちが俺達を待っているのだろう。
何もしないよりかはマシと考え
出来るだけ下を向きながらくらい顔で歩いていると
後ろから俺達を追い抜こうとする足が視界の隅に見えた。
「・・・あっ。」
見えた足の主が何かに気付き俺達に並走して来る。
よく見るとパンツの柄が俺と一緒だ。
「・・・龍穂か?」
聞いたことがある声に思わず顔を上げるとそこには
眼帯をした国學館の生徒である伊達さんがいた。
伊達輝だてひかるさん。
三年生であり、元気で空回りしている謙太郎さんの
突っ込みをしている人だが
実力は折り紙付き。
三道は全て上級であり、瞳に下には見ただけで相手に
魔術をかけることが出来る魔眼を持っている。
「・・・・・・・・・はい。」
もし伊達さんも三道省合同会議に呼ばれていて、
千夏さんの打ち首を狙っているのなら
元気な姿を見せてはいけない。
何とか暗い顔をしようと顔を上げずに返事をする。
「・・・・・?」
いつも元気よく返事を返しているので違和感を覚えた
伊達さんが不思議そうにのぞき込んでいる。
・・どうしようか。
「龍穂。輝なら大丈夫だ。」
戸惑っている俺達を見て定兄が肩に手を置いて
助け舟を出してくれた。
「輝も大変だな。学校があるのに呼び出されて。」
「いや、それを言ったら定明さん方が大変じゃないですか。
しっかりと会議に参加して意見を出しているんですから。
俺なんて途中参加でしかも暴走気味に母さんを引き留めるために
呼び出されているだけですからね。」
「輝が引き留めてくれたおかげで何とか会議を続けられているんだ。
十分大仕事だよ。」
話している内容からして伊達さんのお母さんが
会議に参加しているらしい。
暴走気味と言う言葉が気になるが、確か伊達さんは長男だ。
若くして省の中の部署の長をできるほど相当優秀な人の様だ。
「あの足・・・傷は深いみたいだな。」
「ええ・・でも大丈夫ですよ。」
「龍穂。神道省から出席している伊達家は
省は違うが徳川家の打ち首を阻止しようとしてくれている
数少ない味方だ。」
「・・その言いかただと、そういうことなんですね。」
伊達さんは下を向いて大きなため息をついた後、
真剣な顔で俺の方を向いた。
「徳川家、特に仙蔵さんに伊達家はお世話になっていてな。
まだ事件の真相が見えてない今、忘れ形見である
千夏への罰をなんとか阻止しなければならない。」
「魔術省が創設され、緊急時を除けば歴代の省長は
全て徳川家の名前がある。
それだけ長い期間支持を受け、省長の務めてきたという事は
省の垣根を超え、日ノ本のために手助けをしてきたという証だ。
そのため仙蔵さんを慕っている一族は多いが
朝敵に疑われるような事件だ。
下手に擁護をして本当に仙蔵さんが悪意を持ってこの事件を起こしたのなら
自らの首を絞めてしまうからな。」
「最悪一族ごと責任を追われかねない。
それを危惧して表立って仙蔵さんを擁護できない一族は多いだろう。
龍穂が参考人として出席して擁護をしてくれれば仙蔵さんへの印象を少しでも
変えることが出来れば、味方を増やすことが出来る。」
これから会議で俺が話すことの意味の重さを
二人の会話から感じ取る。
大きくは動くことはできないが徳川さんを慕う
人達がいるのは大きな収穫だろう。
「そう言えば影定さんはいらっしゃらないんですか?」
「親父は皇を探しに行っている。
どうやら龍穂の証言があったとしても徳川家の罪を
拭うことはできないと踏んでいるらしい。」
「そうですか・・・。
まあ、皇がいれば話が早いですからね。」
「そっちこそ龍りゅうさんはどうしたよ。」
「母さんは張り切って既に会場に入っていますよ。」
定兄が俺の背中を軽く叩き、歩きだす。
何とか二人に追いつこうと必死に歩いていると
大きな門が目の前に現れる。
「ここが・・・・・。」
門の横に立てかけてある大きな木の札には神道省本庁と刻まれていた。
前身である陰陽寮時代の本庁は京都にあったが、
明治時代に皇が東京に移った時に神道省へと名前を変え
今の本庁が建設された。
明治から長きに渡り日ノ本を見守ってきており、
過去の大戦では通常神道省職員や皇しか立ち入れないが
民を守ると言う名目で多くの市民が避難を受け入れ
雨の様に降る焼夷弾から神道省職員たちが作り上げた
結界で守ったという逸話が残っている。
そんな歴史ある建造物の中で開かれる会議で
仙蔵さんをかばい、千夏さんを助けなければならない。
「止まれ。」
三人で門に近づくと装束姿の男に声をかけられる。
「何用だ。」
この人も当然神道省に勤める高官であり門番の任務についている。
勤める職員の装いは装束のみというわけでは無く、
他にもスーツが認められているが
見える位置に神道省のピンバッジの着用が強制されている。
「三道省合同会議へ出席に参りました。」
定兄が衛兵の問いに答える。
「姓名をお伺いしたい。」
「上杉定明です。こちらは伊達輝。
そして参考人として招来を受けた・・・。」
「上杉龍穂です。」
俺達の名前を聞いた門番は背筋を伸ばし
深々と礼をする。
「ご無礼を失礼いたしました。
伊達殿、上杉殿。三道省合同会議は大広間で行われます。
連日での開催大変お疲れでしょうが日ノ本のため
ご尽力ください。」
謝罪と激励の言葉の述べた後、
門を叩くと大きな音を立てて開いた先には
見るからに歴史を感じる木造の本庁が目の前に現れた。
本庁までの道は石畳みが敷き詰められており、
革靴と松葉杖を鳴らしながら歩いていく。
この古風景色はなかなか見れるものでは無い。
歴史的背景やこういった芸術的な景色などを含め日ノ本の有形文化財に指定されている。
本庁に入ると中で働く職員達から緊張が伝わってくる。
本来合同会議は長くても三日程度。
長く続くこの会議がどれだけ異常であり
またこの期間皇が一向に姿を見せない緊急事態が
職員達を勘ぐらせているのだろう。
「大広間は二階だ。」
広い階段を上がろうとするが、
古い造りの建物によくある階段を登ろうとするが
松葉杖を上手く使えずうまく登れない。
ここだけは仕方ないと杖をつかずに登ろうとするが
貫かれた足に力を入れると鋭い痛みが走り
上げた足を戻してしまう。
起きたばかりで痛みに鈍くなっていたのかもしれない。
もう一度松葉杖を使いなんとか階段を登ろうと
試みるがやはり慣れない動きはぎこちなく、
体勢を崩してしまう。
「やばっ・・・!!」
重心が後ろに傾く。
頑張って上がった階段の数だけ高さがあり、
このままいけば頭から床に落ちてしまい下手をすれば
意識が飛んでしまうだろう。
踏ん張ろうとしても一本足ではどうしようもできない。
出来ることと言えばこれから体を襲うであろう
痛みに耐える心の準備だけだ。
(耐えろ・・・・・!!)
心の中でそう呟いて痛みを待っていると
感じていた空気の流れがぴたりと止まる。。
「大丈夫か?」
後ろから誰かが支えてくれたようで
ゆっくりと元いた位置まで戻してくれた。
「あ、ありがとうござい・・・・。」
お礼を言おうとゆっくり振り返るとそこには
国學館の制服を着た大柄の男性。
「・・・・・・・。」
謙太郎さんの姿がそこにはあったが
何やら神妙な顔つきでこちらを見ていた。
「元気・・・みたいだな。」
「は、はい。少し前に起きました・・・。」
いつもの笑顔で元気な謙太郎さんとは
真反対の大人しい姿に違和感を覚え会話がぎこちなくなってしまう。
「謙太郎!何をしておる!!」
階段の先から怒鳴り声で謙太郎さんが呼ばれると
無言で俺の肩を叩き、下へ降りてった。
「龍穂!」
俺が登ってこないのを心配したのか
二人が急いで降りてきてくれる。
「大丈夫か?」
「え、ええ。転びそうになったんですけど
謙太郎さんが助けてくれたんです。
でも、様子が・・・・・。」
おかしいと伝えると、伊達さんが俺だけにしか
聞こえない声で囁いてくる。
「謙太郎も祖父である当主に連れられて参加しているんだが
あいつの家は徳川家への罰を早急に行う様に会議で
毎回強く主張しているんだ。
兼定さんが強く止めてくれるおかげで今の所主張は通っていないが
謙太郎としては複雑なんだろうな。
今まで切磋琢磨してきた同級生を身内が殺そうとしているんだから。」
山形上杉家は神道省所属だ。
徳川家の罪を強く主張したところで
地位が上がるわけでもないのに・・・・。
「・・そうなんですね。」
山形上杉家にも何か事象があっての主張だろうと思うが、
肩に乗せた手には力がこもっており
謙太郎さんが俺に何か伝えたいのだと感じ取った。
あの人は仲間を軽んじる人ではない。
きっと千夏さんの事を思い、俺に何かを託したのだろう。
「ごめんな龍穂。今手を貸すぞ。」
二人に手を借りて何とか階段を登り切る。
階段の先には多くの人が詰めかけており、
身に着けている衣服に各三道省のマークと
有力な一族の家紋が細工されたピンバッジが付いている。
ここにいる全員が出席する一族やその部下達だ。。
「・・龍穂。俺が先導するからなるべく下を向いて歩け。」
定兄が耳打ちをしてくる。
ここからが敵の根城・・ではないだろうが
この中に敵がいるのは確かだろう。
言われていた通りに暗い顔をして周りとなるべく目を合わさずに
しばらく歩いていると前を歩いていた定兄が
俺に手のひらを見せて止まれと指示を送ってくる。
「三道省合同会議に参加する上杉と伊達です。」
どうやら大広間に着いたようだ。
「お疲れ様です。そちらの方は?」
「参考人として招待された弟の上杉龍穂です。」
少しだけ上を向き、睨みを効かさないように受付の男を見つめ
軽く会釈をする。
視界の隅から視線を感じる。
定兄の言葉に先ほど通ってきた奴らが俺の事を見ている。
「・・どうぞこちらへ。」
明らかに警戒されている。
俺がこれから述べる言葉にはそれだけの力があることを示していた。
「着いた。顔を上げていいぞ。」
顔を上げると畳が敷き詰められた大きな部屋が目の前に広がっており、
均等に置かれたお膳とその横に二枚の座布団が敷かれていた。
「俺達はあの場所に座るが龍穂は招かれた身だ。
奥の方へ座ってもらうから案内された所へ座ってくれ。」
受付とは別の職員がこちらへ向けて頭を下げ
こちらですと案内してくれる。
座布団の横を通り、奥へ進んでいく。
横目で会場を眺めていると
お膳の上に苗字と所属している部署が書かれたプレートが置かれている
事に気が付いた。
各省の省長と副省長。
神道省陰陽部、式神部、祭事部。
魔道省魔術部、魔術研究部。
武術省公安部など有名な部長や課長の名が記されており、
少数ではあるが室長などの名前があった。
親父は神道省祭事部の部長であり
皇が行う祭事を取り仕切っている。
伊達さんが座ったのは式神部部長の札が書かれた席。
その前には目に大きな傷をつけ男物のスーツを身にまとった
見るからにイラついている女性。
この人が話題に出てきた伊達さんのお母さんだろう。
今どき珍しい煙管を口に咥えこちらを睨んでおり、
お膳の横に置いてある金で装飾された黒い煙管盆に
威嚇する様にわざとらしく音を立てて灰を落としていた。
(気にしない気にしない。)
強い威圧感が俺に向けられているが
これに怯えているようではこの先の会議でまともにしゃべれないだろう。
(・・久々に煙管なんて見たな。)
幼い頃、丁度純恋が遊びに来ていた時だ。
家の中庭で手持ち花火で遊んでいた時に
縁側で綺麗に装飾された
煙管を吹かしながら俺達を笑顔で見守っている人を見て
興味を持ち、色々教えてもらった記憶がある。
(・・・あれ?)
親父は紙煙草を吸うが煙管なんて吸っている所は見たことが無い。
二人の兄貴たちは吸える年じゃなかったし
母さんは非喫煙者。
楓の家や近所の人達もそんな趣味は持っていない。
(誰だ・・・・?)
恐らく封印されていた記憶の中の1ページなのだろう。
必死で思い返すがその姿が煙に巻かれているように思い出せない。
「こちらへお座りになってお待ちください。」
気付けば座る位置にまでたどり着いており、
そこには純恋と桃子の姿があった。
「・・・よう。」
きちんと正座をして淑女の姿とは
真反対の挨拶をしてくる純恋。
「元気・・・じゃなさそうやな。」
隣に座っている桃子は心配そうな顔でこちらを見つめてきた。
「元気だよ。何とか動けるくらいにはな。」
正座をしようとすると足が痛むので
比較的楽な胡坐をかいて座る。
会議が始まる前に正座をすれば大丈夫だろう。
会議まで約三十分あるが、
続々と大広間に有力一族達が集まってくるが
その中に親父や兼兄の姿は無い。
「・・・・なあ龍穂。」
必死で二人を探していると隣の純恋が話しかけてきた。
「あの約束・・・守るんか?」
「ああ、守るよ。」
「そうか・・・、えらいお人よしやなぁ。」
恨めしそうにつぶやいた。
「お人よし?」
「龍穂から見たら成長させてくれた相手なのかもしれへんけど
外から見ていた私達からしたらあんなんただただ龍穂を殺そうと
していただけや。
もう亡くなっとるみたいやし、別に守る義理も無いとは思うけどな。」
義理・・・か。
純恋の言い分も十分に分かる。
体を傷つけられたあげく、一方的に押し付けられた
約束を最後まで守る必要はないのかもしれない。
「・・確かに言いたいことは分かるけど、一度決めたことだからな。
それに・・・、俺の周りから人がいなくなるのは嫌だからな。」
とにかく仲間や家族は大切にしろと親父にとにかく言われていた。
その教えに沿って楓や友達を大切にしてきたと思っている。
「・・・・・・・・そうか。」
純恋が気を使ったのか一言だけ返してきた。
俺の隣にいつもいるはずの楓がいないからだろう。
だがもしこんなことでへこたれていれば楓に嫌みを言われてしまう。
楓はきっと生きている。再会した時に胸を張って
報告できるような態度を取らなければならない。
「・・そう言えば純恋。」
先程思い出したことを純恋に伝えてみる。
「花火を見ていてくれた人、分からないかな?」
「・・煙管を吸っているもの好きなんてなかなかおらん。
龍穂が言っていた色や装飾の煙管を持っている人に心当たりはあるけど・・・・。」
純恋はやはり知っているようだが
不思議な顔をして何かを考えている。
「どうしたんだ?」
「いや、特徴的にじいちゃん・・皇が使っている煙管なんやけど
あの時じいちゃんなんかいたか・・・?」
心辺りがある人物の皇らしいが八海にいるはずがない。
もしいたとしても大騒ぎになっており
俺と純恋を見守るなんてことは出来ないだろう。
(純恋が分からない・・・・か。)
俺より記憶を取り戻すのが早かった純恋が知らないなんて
記憶があやふやになっているのだろうか?
「開始時刻よりお早い着席感謝しますよ。」
釣られて深く考えているといつの間にか席はほぼ埋まっており
それを見た装束の男がこちらに向けて歩いてきていた。
「こうして参考人の方々もご出席いただいたようですので
長きに渡る議論に答えが出るでしょう。」
男は一番奥の席に腰かけ扇子で顔を扇ぐ。
その男は俺を国學館へ送り込んだ一人である土御門泰国であった。
父親から養子だと伝えられた途端、遠い先祖から命を狙われています~代々伝わる陰陽師の力と俺の中に秘められた宇宙の神の力でこの世界を成り上がる~ @tatubee
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